エピソード14 初めての接触

「ねえ、君・・・こんなところで何をしているの?それに・・。」


王子様が初めて私に話しかけてきた!そして重そうなキャリーケースを運びながら階段を下りてくるフォスティーヌに目を向ける。よし・・・今だ!


「ほら、早くしなさいっ!フォスティーヌさんっ!全くあなたは愚図でのろまねえ!」


ここぞとばかりに私は意地悪そうな声で言った。


「は、はい・・すみません、リアンナさん・・・。」


フォスティーヌはフウフウと顔を真っ赤にしながらキャリーケースを運んでいる。


「・・・・。」


その様子を見ていた王子様はおもむろに階段に上って行き、フォスティーヌの前で立ち止まると言った。


「荷物、僕が持つよ。貸してごらん?」


優しい声で言う。


「お、王子様・・・あ、ありがとうございますっ!」


フォスティーヌは目をキラキラさせながらお礼を言う。おおっ!うまくいったじゃないのっ!

王子様は軽々とキャリーケースを持つとフォスティーヌと一緒に階段を下りながら尋ねる。


「君の部屋は何処なの?」


「はい、105号室です!」


「よし、そこまで運んであげるよ。」


等と会話をしつつ、2人は私の前を歩き去って行く。一瞬フォスティーヌには私の方をチラリと見ると笑みを浮かべた。

うん、よしよし。この調子でフォスティーヌを虐めて?いけばいいのね。


「リア・・・お前、本当に『悪役令嬢』ごっこを実践していたんだな?」


いつに間にかすぐそばにアレクが立っていて、私に声を掛けてきた。その声はどこか非難めいていた。


「あ・・・アレク・・・。」


「リア・・・本当にそれでいいのかよ?」


「え?」


「どう見ても・・・お前に悪役は似合わない。むしろ友達の方じゃないか?悪役が似合っているのは・・っていうか、そもそも本当の友達なら・・こんな事頼まないんじゃないか?お前はあの女に利用されてるだけじゃないのか?」


アレクの言ってる事は分る。だけど・・。


「アレク・・・・。私はね・・・中途半端な人間なんだよ。」


「中途半端?」


「そう、一応落ちぶれてはいるけど爵位があるから平民ではないし、かといって普通の貴族たちから相手にされるような存在でもない。だから・・友達が出来にくくって・・。そんな中、フォスティーヌが一番気さくに話が出来る存在なのよ。だから、できるだけフォスティーヌの力になってあげたいだけだよ。それにね、フォスティーヌってすごく可愛いところがあるんだから。もっと自分の魅力に気づいてくれれば・・こんな回りくどい事しなくたって・・。私が王子様だったら、フォスティーヌを選ぶのにな・・・。」


「リア・・。」


アレクが何故か少し悲し気な顔で私を見る。何だかしんみりした話になってしまったから、私はわざと明るい声で言った。


「いっそ爵位なんか関係ない国にでも行けばいいんだろうけどさ~。あいにく私の生まれた国は平民と貴族が存在する場所だから・・ね。古臭いところなんだよ。」


「そうか・・・リアの気持ち分る気がするよ。」


「え?アレクもなの?でも・・・王子様の付き人やってるくらいだから・・・きっとアレクの爵位も高いんだろうね?」


「気になるか?俺の事・・・。」


何故か意味深な顔で私を見下ろすアレク。


「う~ん・・・。でもさ、知らない方がかえってミステリアスでいいと思うよ。その方が仲良くなれる気がするし。それに・・・。」


それに・・どうせこのサマースクールの・・1か月間だけの仲間だから。


「何だよ、それにって。続きはないのか?」


アレクは不満そうに聞いて来た。


「うん。そうそう。さて、それじゃ部屋に戻って荷物整理でもしてこようかな~。またね、アレク。」


ヒラヒラ手を振って目の前の中央階段に向かおうとしたとき、アレクが声を掛けてきた。


「リア。」


「何?」


振り向くとアレクが言う。


「王子の・・・スケジュール・・知りたいか?」


「え・・ええ?!本当?」


急いでアレクの元へ戻る私。


「ああ、その代り・・・。」


「その代り?」


え?一体何を要求されるんだろう・・どうしよう、お金なんて持ってないしな・・。


しかし、アレクの言葉は予想外だった。


「後で一緒にランチに行こう。」


そう言ってアレクはニヤリと笑った―。

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