エピソード1 悪役令嬢になってと頼まれる私

 アボット家が手配したプライベートジェットの飛行機の機内の中でフォスティーヌは眼下に見える美しい海の景色には目もくれず、一心不乱に本を読み漁っていた。


「ねえ・・・フォスティーヌ。さっきから何を真剣に読んでるの?」


フォスティーヌの向かい側の座席で映画を観ていた私はヘッドホンを外すと尋ねた。


「うん、これはね・・すべて悪役令嬢を題材にした小説や漫画なのよ。最近世間では流行ってるんだから。」


得意げにフォスティーヌは本から顔をあげて私を見た。


「ふ~ん・・悪役令嬢ねえ・・・。でもどうしてそれがこんなに人気があるの?」


「それはね・・・自分が悪役令嬢という不利な立場にありながらどんな逆境にもめげずに頑張って、最後は素敵なヒーローと結ばれる素敵な話だからよ。」


「ふ~ん・・・そうなんだ・・・。」


私は機内雑誌を手に取りパラパラとめくっていると、突然膝の上に本が置かれた。


「・・・何。これ?」


「リアンナも読んで。」


「はあ・・?い、いいよ・・私は別に・・・。」


だって私が好きな小説はホラー小説かミステリー小説なんだもの。あいにく恋愛小説は手に取った事すらないのだから。」


「だーめ、リゾート島へ着くまでに熟読しておいて。」


「じゅ、熟読って・・・。」


「とりあえず目的地へ着くまでのフライト時間は約6時間。それだけあればここにある本全て読み終えることが出来るでしょう?」


フォスティーヌはサイドテーブルに置かれた山積みにされた本を指さすと言った。え・・・・?ちょっと待ってよ・・一体何冊あるって言うの・・?ざっと見た限りでは20冊近くあるようにも見えるのだけど・・?


「ねえ・・何故読まないといけないの・・?さすがにこの量は無理なんだけど・・。」


「そっか・・なら仕方ないわね。それじゃ島にいる滞在期間中に読んでね?しかも島について1週間以内にね。」


そしてフォスティーヌはオレンジジュースを飲んだ。


「ははは・・分かったわ・・読めばいいんでしょう・・?」


そして私はフォスティーヌに命じられ、しぶしぶ1冊目の本を読み始めた―。



***


 それから1時間後―


「ふう・・・。」


ようやく1冊目の本を読み終えた私はパタンと本を閉じた。その気配に気づいたのか、別の本を読書していたフォスティーヌが顔を上げた。


「どう?リアンナ。読み終えた?」


「うん、何とかね・・。」


「それで、どうだった?」


妙にわくわくした目で私を見るフォスティーヌ。


「どうって・・・何が?」


「だから・・・今読んでいた本の感想を教えてよ。」


フォスティーヌがズイッと身を乗り出してくる。


「あはは・・そ、そうだね・・・。うん、なかなか面白かったよ。」


「それじゃ・・・やれそう?」


「え?何を?」


「だからぁ・・・今の小説に出てきた悪役令嬢を演じられるって聞いてるのよ。」


え・・?何だか非常に嫌な予感がしてきた・・・まさかフォスティーヌはこの私に悪役令嬢を演じせようとしているの・・?これじゃあ、私よりも今のフォスティーヌの方が余程悪役令嬢に見えるけれども・・・。

そこまで考えて、私はある疑問に気が付いた。


「ねえ。ちょっと待って。それって、ヒロインはフォスティーヌで悪役令嬢が私って事だよね?」


「ええ、勿論そうよ。ヒロインが悪役令嬢に虐められながらも、素敵なヒーローと恋仲に・・。ん・・?」


ようやくフォスティーヌは気が付いたようだ。


「私が読んだこの本の小説は確かに悪役令嬢が出ていたけど・・・結局意地悪だったのはヒロインの方で、悪役令嬢の方が最後は幸せになってるけど・・?」


「あ・・・っ!」


「まあ・・・確かに最初の内はヒロインとヒーローが仲良くやっていたけど、それはヒロインが悪役令嬢を罠にはめて悪人扱いしていただけだよね?彼女を悪者扱いして婚約者を奪おうとしたけど・・それが全てばれてしまい、不幸になったのはヒロインの方だった・・・。」


「・・・。」


「つまり、この本の通りにやれば・・不幸になるのはフォスティーヌの方だよ?」


だから、お願いだから妙な事は考えないで~っ!!


「それなら・・・徹底的にやればいいのよっ!」


「へ・・?何を・・?」


「だから、リアンナが徹底的にこの私を虐めればいいのよっ!それこそ嫌われるくらいにっ!」


「それは無理!」


私はすぐに即答した。


「え・・?何で無理なのよ・・。」


「だって、そんな事したら私はサマースクールに来た人達全員に嫌われちゃうじゃないのっ!1カ月もそんな状態が続くなんて無理に決まってるでしょうっ?!」


「う・・・そ、それは確かに嫌かもね・・・。なら、こうしましょう!」


フォスティーヌはポンと手を打った。


「私が意中の人と2人きりになれた時だけ・・・虐めてくれる?」


そしてフォスティーヌは小悪魔のような笑みを浮かべて私を見た―。




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