エピソード 0

「ええ?!一緒にサマースクールへ行って欲しいって?!」


わたしは親友で伯爵令嬢のフォスティーヌ・アボットと一緒に彼女の住む豪邸のテラスで午後のティータイムに呼ばれていた。


「そうなの、ほら見て。この企画!」


フォスティーヌは自分が眺めていたタブレットを私に見せてきた。


「え・・と、なになに・・・参加資格は・・16歳から18歳までの未婚で爵位のある男女のみ・・。場所は南大西洋に浮かぶリゾート島で1ヶ月のサマースクール開催・・って何これっ?!」


「どう?リアンナ?行ってみましょうよ!ほら、申し込みは明日までなのよ!女性の申し込み枠は残り2名なのよっ!」


フォスティーヌは伯爵令嬢とは思えない程興奮して鼻息を荒くしている。


「いやいや・・・無理だってばっ!だってフォスティーヌは立派な伯爵家だけど・・私は・・・。」


するとフォスティーヌが言った。


「何言ってるのよ、リアンナだってウェスト家の男爵家の令嬢でしょっ?!」


「駄目だってばっ!いくら爵位があったって、うちはとっくに落ちぶれているし、爵位なんかあったって無いも同然なんだから!」


そう、私リアンナ・ウェストは一応、男爵家の長女である。7歳年上の兄が1人いて公務員として働いている。そして父はリアンナの遠縁にあたる侯爵家で執事の仕事をしているし、母は保育園の園長・・いわゆる一般家庭とほぼ変わらない生活を営んでいる。だから幼馴染のフォスティーヌの豪邸に遊びに来るたびに、その生活レベルの差に人知れずコンプレックスを抱いていたのだ。それに父がアボット家の遠縁の屋敷で働いていると言う事もあり、何となくフォスティーヌと私の間には親友でありながらもちょっとした主従関係のようなものが出来上がっていた。

結局いつもフォスティーヌの無茶ぶりのお願いをいつも聞き入れる羽目になっていた。だけど、今回ばかりはその企画内容から費用までもがとても受け入れられるレベルを超えていた。


「ねえ、フォスティーヌ。本当に無理だってば。第一我が家にはこんな大金を出せる程の余裕はないよ。だって滅茶苦茶な金額だよ?普通の人の給料の半年分くらいの金額じゃないの。」


タブレットを返しながらフォスティーヌに言った。きっと予算の事を言えば彼女も無理には誘っては来ないだろうと思っていたのだけど・・。


「それなら、大丈夫よっ!旅費なら全額私が出してあげる。それにお小遣いの分だって前払いで渡すから。ね?いいでしょうっ?!お願い、お願いっ!」


フォスティーヌは両手を前に合せて、可愛いい『お願い』をしてくる。う~・・昔から私はこのお願いに弱いんだよね・・・。


「分ったわよ・・。でも一応お父さんにこのサマースクールに参加していいか確認を取らないと行けるかどうか分らないよ?だって私達まだ成人年齢である18歳には満たしていなんだから・・。」


「分ってるってば。リアンナのお父様とお母様の許可が下りなければ残念だけど断念するから。」


「オッケー。それじゃ・・今夜両親に相談してみるからね。期待に添えなくても文句言わないでよ?」


「うん、勿論よ。」


フォスティーヌは笑顔で答えた。

しかし・・・この企画、本当に大丈夫なのだろうか?16歳から18歳までの健全な男女がリゾートの島で1か月間一緒に過ごす・・こんな状況で生活するなんてこの企画者の貞操観念を疑ってしまう。はあ・・参加したくない・・でもきっとお父さんなら反対してくれるよね?


 しかし・・・。




***


「何言ってるんだっ!行きなさいっ!いいや、行って貰うっ!」


その夜の事・・・。一家団欒の食事の席で私は早速サマースクールの話を家族に持ち掛けたのだ。てっきり反対されるかと思っていたのだけど・・。


「あなたっ!何を言ってるの?!こんな怪しいサマースクール・・・リアンナに何かあったらどうするのですかっ?!」


母は興奮気味に父に抗議した。


「そうだよ、父さん!リアンナはまだ17歳なんだ、何かあって傷物にされて嫁の貰い手がつかなくなったらどうするんだよっ!」


妙に具体的な内容をほのめかす兄。


「その時はその時だ、相手に責任を持ってもらい、婚約してしまえばいいのだからな。」


おおぅっ!父とは思えぬ台詞だっ!


「だ、だけど・・お父さん・・・。」


貴女は娘の事が心配じゃないの?そう言おうとした矢先・・


「とにかく、お前にサマースクールに参加してもらいたいとお願いしてきたのはフォスティーヌ嬢だろう?私はあのお嬢様の遠縁にあたる侯爵家で働いているのだ。もしお前が断れば・・私は職を失ってしまうかもしれないっ!」


「うっ・・・!」


ここまで力説されれば、最早反論しようが無かった。


こうして私は父の後押しで・・サマースクールにいやいや参加する運びとなった。


それは夏休みに入る半月前の出来事であった―。



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