リワード(報酬)
中川さとえ
報酬(リワード)
すごく久しぶりのヒトからメールが来てる。ウィルス仕込んでも見返りはないはずとふんでそのまま開いたら、キャリアの電話番号があって続きはSNSでとある。適当なスマホから送って、やっとLINEつくってつなげてでやっと本題。
やあ、悪かったかな。悪くはないですけどね、相変わらずメンドクサイひとですね。頼みがあるんだな。だから連絡してきたんっしょ?そうね。協力して欲しいのよね。…報酬の話から入っていいですか?
頼みはつまんない話。
K出版のWebサイトがうちわのコンテスト祭りしてるから撹乱して、だと。
叩き潰すでなくて、ですね?俺はちゃんと確認したよ。うん、撹乱でいいの。…人手集めていいすか?いいよ。お友だちみんな呼んであげて。
報酬確かですよね。確かだよぉ。オレ嘘ついたことある?
嘘しか聞いたこと無いような覚えはある。でも俺は合図の狼煙をあげた。
みんなに会いたかったから。狼煙をあげる理由ができてよかった、そう真底思った。皆ちゃんと生きてるかなぁ。どれだけが応えてくれるかなぁ。狼煙に付けた電話番号にSNSがちゃんと返ってきた。ひとつ、またひとつ。嬉しかった。すごく嬉しかった。
「わ、なんだこれ?」「お題に沿って、だと。」みんなが一斉に打ち込むからすげぇニギヤカ。チャット場なら滝ログだ。懐かしスギテ哭きそうだわ。「大喜利?」「原稿用紙2、3枚もかけてたらIpoooN!はとらねーな。」「長すぎだな。」「で、…どうすんの?」撹乱して欲しいそうだよ。「なにそれ。」「わかりにくいわ。」「ふーん…これさ。突っ込みドコ満載。」ああ、俺もそれはわかった。でも荒らしてくれ、じゃないんだわ、んだから突っ込めねえの。「はぁい、出来レースしますよぉって選手宣誓みたい。」「お祭りなんだからそれでもいいんじゃない?」「そうだよ。…あれ、じゃさ、盛り上げる、じゃないの?」撹乱てったんだよ。「…とりあえずアカウントとるか。」「だな。ひとり何個?」何個ずつくらいとれる?「…トータルで何個いるんだ?」「だな。モンダイはそこ。」「んー、通常ならさ5、60は絶対だけど、ここ…これなら10、20でいけるんじゃね。」「ちょっとナメすぎ(草」「かもかも。」誰が書く?「書き手ようのアカウント決めっぺ?お題10個あるならさ、得手不得手あるっしょ?」ま、そらそうだけどな、クオリティは求められてないんだわ。「違いない。この判定のしかたじゃ、数がなかなか物言うよな。」「わははは。終わってんな出版社なのに、くそでも勝てるコンテスト。」それがさなかなか巧妙だぜ。どれなら勝ち、なんかがようわからん。「おし。アカウントつくったぞ、とりあえず3かな。」「俺も取った。まだ2だけどな。…増やせるぜ。いる?」そうだ。ばさんは?「お?来てないの。」「おお来てないね。」「ばさん、パソコ壊れたって、」「…ばさん欲しいな。」「僕ね知ってるよ、アドレス。」「お?頼む、つなげてよ。」「オッケィ。送っとく。」「ホラーなら絶対ばさんだ。」「ホラーくるかな、わくわく。」「来るだろ、一回は。」「うわー…ばさんのホラー。しかも書き下ろしっ(たぶん)、」「コワイですぅ」「愉しみぃ。」「オムツ買っとけよ。」さて一発めは誰が書く?「お題なんだったっけ?あ…、ホームドラマするん。」「つまらんだろ。ホームドラマ」「最近はそゆのがいいんだよぉ。世の中荒んでるから。」「てんてん、お前したら?原稿用紙3枚だ。15分たべ?」「あ。…15分ありゃ4枚かけるよ。」
「じゃそれで。ホームドラマね。」「了解。」「書き手ようのアカウントこれでいいかな?」いいんじゃない?「銀行口座要るぞ。」あ、おくるわ。えっとこれで。「了解。」「ほい。できたよ。」「はっや…。相変わらず職人だなっ」「どれどれ。」「…めさ久しぶりだからさ(実は)。鈍ってたら、すまぬ。」「おー、いや、いいんじゃね?」「うん、泣けるなっ。」「…すげ、あからさまに堂堂の、ウソ泣き。」ははっじゃあげるぞ。今日はとりあえずこんなかんじ。「オッケー」「次は…」「明後日?昼にお題だな。」「おい?読者ってどやってなるんだ?」ああそれな。謎なんだ。「はあっっ?ザケンなよ(草」だろ?たいがいだよな。「オトナッテヤダヨネ。」「とりあえずフォローはしたぞ。」「あと1話から読む連打な。」「1話しかねぇわっ。そもそもがっ。」「めんどくせ(草」さすがに藁は使わんかw「いまの、ものホンのわかいこはさ、くさ、て声に出していうのさっ。」「おうよ。俺たちワカモノだかんなっ、当時からワラなぞ使わんかったぜ。俺はな。」「俺も」「オイラも。」「じゃ明後日な。」「そそ、またな。」
こうやって1日が過ぎ、また1日が過ぎ。お題は律儀にでて、皆がそのたびにしれっと集まって、やいやい言って。
「んー、どうみても、」「うん?」「俺たち喜んでお祭りに参加してるだけっ、でねぇ?」「…奇遇だな。俺もそんな気がしてる。」「おれも、若干。」
そうなんだよな。しかしこの天、つか、上に出てくるやつてなんだろな。「お友だち一杯のひとだろ?」「仲良しでいいじゃん。」「ま、俺らのもまぁまぁ上には付けてきてるぜ。やっぱ延べ数の勝負なんだろな。」「うーん、順位つったら血が騒がんこともないが…、」「ムカシムカシだよーぉ。」「まな。」「俺はただウザいな。上にタラタラおられるとさ、ナンピトたりともっ!て、なるやん。」「…年寄り。」「…ゴメンナサイ。」それでも全く一般のひと巻き込まれてるぞ、数名だが。「お、まじ読者だ。」「目出度い。」「ファンの集いしたい。」「Twitterとかにリンク貼るか。」「…順位狙いなら、はなからする王道だけどな。」「エロこんかなぁ。」「来るかなあ。きたら誉めてやるぞ、運営。」「そらスゴい勇気だろう。お題 エロ」「PVすっごいことなるど。」「どっから来たんや、がわんわんわくな。」「エロは強いからな。検索。」「あー、強かったなあ、エロ。今でも、つええんだろな、」「強いなんてもんじゃねぇよ。…サガって切ないよネ。」「切ないねぇ。蛾と誘蛾灯。」「…燃え尽きて悔い無し。」
そのあとエロだったら誰が書くかですごい盛り上がったけど、最近のトレンドはBLだし、で一気にしょげる。ちなみにBLなら、ばさんが書くそうだ。
1日が過ぎて、また1日が過ぎて。皆知らん顔で夜になったらしれっと集まる。いつかとおった夜と同じ。楽しい日々はすぐ通り過ぎる、は年を取ってもおんなじなのか。
「そいえば報酬。」「ああ報酬。」ああくれるそうだよ。だいじょうぶ、でもってこの祭のお駄賃きたらそれも山分けでいいそうだよ。「…まじで、盛り上げる だべよ。」「報酬あるならどっちでもいいや。」「どんくらいくれる?」
この人数ならひとり一万は確定。端数はLINEぺいで分けよう?きっちり。…安いかな。「元手かかってないから、俺は構わないぜ。」「俺も。やりぃ、だよ。」
「クライアント誰なんだ?」…まあ、話してもいいかな。そもそもそれは秘密てはなかったし。俺たちは以前其々の場所で頼まれて提灯記事とかかいてたんだ。三百円とかもらってね。現物支給も多かったよ。チャット場で出会って気があってだらだら集まってたんだよ。タムロしてたのさ。ネットの中でね。
「え、誰だって?」
あ、バクロウ、お前なら覚えてるかな、チュプカムイて名乗ってた奴。
「おお。覚えてる。」そいつだよ。そいつが持ってきた話なんだ。「ほー、」「なんかナツカシイ名前だぞ。」ま、そゆこと。「…なあ。」ん?どうした。「俺さリアルでチュプカムイ会ったことあんだよ、偶然だったけど。」うん。あ、そうなんだ?「あいつさ、…リアルでK出版社勤務、だよ。それもけっこう上の。」えーー!「そか、おまえマジで漫画家だったよな。」「…原作ね。」
おいおいおいおい、じゃなにかよ、マジで盛り上げ隊かよ。俺ら。
「たく、なら、素直にそういえよなー。」「ハズカシガリヤさんだな。」「おい?おるぞ、チュプカムイ。」「書いてやがるぜ。クソヤロウ。」「見に行こうぜ。」「おう、」俺も行って読んだ。こいつ、チュプカムイだ。文体てのはなかなか変えられない。まるで指紋だね。でもって、読み手の方もちゃんと覚えてるんだ。不思議だろ。でもそうなんだよ。無記名でもたぶんわかる。これは、だれだ、て。俺、読者だからなっ。「よーし。…フォローしてやろ。」「俺も。」俺も。
「実はさ」ひとりが言った。「俺さ何作か書いちゃった。」ひとりが言った。「奇遇だな。俺もだ。」
告りだしたら全員だった。
奇遇だ、ほんと奇遇だな。実は俺もで、しかも俺はお題全部書いた。
どうやら俺と俺たちは、揃いに揃って、まんまとチュプカムイにしてやられたっぽい。
よし、こうなったらお前ら、ホラーもエロもBLも書いてやれ。under15ならオッケーらしいぞ。
リワード(報酬) 中川さとえ @tiara33
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
同じコレクションの次の小説
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます