第2話 ONE WEEK


李空はこの日、最低な目覚め方をした。


『卓男くん起きて!卓男くん起きて!卓男くん起きて!』


最低限の家具だけが置かれた無機質な部屋に、可愛らしい女の子を連想するアニメ声が響く。


2段ベッドの上から聞こえてくる、連続的でどこか無機質なその声は、自らの意思で止まる気配を一切見せない。


「・・・ったく。またかよ」


いつまでも鳴り響くその声に、いい加減嫌気が差した李空は、2段ベッドに掛けられた梯子に足をかけた。


一段、また一段と踏みしめる度にギシッ、ギシッと鳴る梯子の先には、幸せそうに眠る一人の男の姿が、なかった。


「ん?卓男の奴、居ないのか?」


李空は疑問に思いながらも、無人のベッドに無造作に置かれた携帯電話を指でなぞった。


『卓男くん起きて!卓男くん起き・・』


それに合わせて、女の子の声がピタリと鳴り止む。


その声が、一部のオタクの間で爆発的人気を誇るアニメ。『2。振り出しに戻るスゴロク生活』通称「2スロ」のヒロイン。リムちゃんの声であること。


さらには、「2スロ」の単独イベント「エンドレススゴロク」にて、ルームメイトの卓男が戦利品として勝ち取った「希望の台詞を収録してもらえる権利」を行使して得た音源であること。


その裏で、正規の「サイストラグル」解説者であるオクターと、卓男の間に因縁が生まれたことなど、李空は知る由もないのだった。


「・・・なんだこれ?」


携帯電話のロック画面として表示された画像を見て、李空が言葉を漏らす。


そこにあったのは黒い背景に白い文字。


『探さないでござる』


と、書かれた画像だった。


おそらくは、自分探しの旅の置き手紙的な意味合いだと思われるが、携帯電話の壁紙という媒体と「ござる」の所為で、その辺は曖昧となっている。


「いや、絶妙に分かりづらいわ」


一星寮の一室に、虚しいツッコミを一つ響かせて。


壱ノ国代表が一人。透灰李空の一日は始まるのだった。




才の英才教育をモットーとするは、ここイチノクニ学院。

国の未来を担う若者の胃袋を支える食堂は、今日も活気に満ちていた。


「へぇー!それで卓男くん、学校にも来てないんだ!」

「ああ。どうせまた、ふらっと帰ってくると思うけどな」


その内の一つである四人掛けの席には、李空と真夏たちの姿があった。

それぞれの前には、北の大地の恵みをふんだんに使用した食堂名物。海鮮丼が並んでいる。


その残りに会話の比重が表れており、真夏の方はほとんど口がつけられていない状態だ。


「ふーん・・あ!そういえばね!」


真夏は卓男への興味を一瞬で失い、話題を次へと移した。


「りっくんが引っ越し祝いでなっちゃんに買ってあげた目覚まし時計あったでしょ!あれにね!録音の機能があってね───」

「ちょっ!泥棒猫!」


ドヤドヤと滑らせる真夏の口を、横に座る七菜が慌てて塞いだ。


「むむむんも!(何すんの!)」

「くうにいさまには言わない約束だったじゃないですか!」

「もうもっけ?(そうだっけ?)」

「これだから泥棒猫は・・・」


口を塞がれているのは真夏の方なのに、顔が真っ赤なのは七菜の方だ。


その反応から大方の予想をつけた李空は、話を逸らすように隣に座る人物に声をかけた。


「京夜。今日帰りに事務所に寄るけど、一緒に行くか?」

「すまない。今日から決勝まで、別の場所に居候させてもらうことになってるんだ」

「そうなのか。それなら一人で行くかな・・」

「くうにいさま!それならななが一緒に!」


会話を聞いていた七菜が、真夏の口から手は離し、食い気味に提案する。

発言の自由を得た真夏は、勢いよく息を吸い込むと「異議あり!」といった具合に手を挙げた。


「ダメだよ!なっちゃんは今日ご飯当番でしょ!ここは真夏が・・」

「何を言ってるんですか。この前変わってあげたので今日は泥棒猫の番ですよ」

「ぐぬぬ・・・」


痛い所を突かれた真夏が、猫が不安を表現する時のように唸る。


「あ!そうだ!部屋の冷蔵庫に眠る、限定プリンがどうなってもいいのかあ!」

「な!プリンを人質に取るなんてずるいです!本当に泥棒じゃないですか!」

「ハッハッハー!お腹にハラは変えられないんだよ!」

「どっちもお腹じゃないですか!食い意地張ってるだけでしょ!」


真夏が胸を張って汚い手を使い、その潔い姑息さと天然に七菜が驚愕する。


その様子を眺め、李空は苦く笑った。


「今日は決勝の打ち合わせをするだけらしいから、一人で十分だよ」

「・・・くうにいさまがそう言うなら」

「そうだね!それで、目覚まし時計の話に戻るけど───」

「だからそれはダメです!」


すっとぼけた顔で話を戻す真夏に、七菜が顔を真っ赤にして反応する。


「はあ。仲が良いのか悪いのか分からないな・・」

「最高だよ!」「最低です!」


李空の呟きに、同時に真逆の訴えをする真夏と七菜。


その反応に、李空の横の京夜が首を傾げる。


「李空。この場合はどっちが正解なんだ?」

「さあな。どっちも正解なんじゃないか」

「なるほど。そういうパターンもあるのか・・・」


李空の答えに、京夜は何やら考え込んでしまった。


なんだかんだで息ぴったりな妹と幼馴染の二人と、不器用な親友一人を呆れ顔で眺め、李空は残りの海鮮丼を勢いよく掻き込んだ。




───放課後。


李空が学院から事務所へ向かうと、そこには既に壱ノ国代表将。軒坂平吉が待ち構えていた。


「遅いで李空!」

「そんなあ。これでも急いで来たんですよ」


平吉はタオルを首に掛けており、額には汗が滲んでいた。

逆算して考えるに、学院には行かず、一人でトレーニングに勤しんでいたのだろう。


「学校サボって良いんですか?学生の本分は勉強ですよ」

「ワイは頭がええねんで。なんで足りとることに時間割かなあかんねん」

「それはそうかもですけど」

「それに卒業年度の『金』は、自主登校みたいなもんやねん」

「そうなんですか」


隙のない言い分に、李空はすっかり言い包められてしまう。

さらに、彼の理屈で言えば、平吉は自分の実力をまだまだだと評価していることになる。


その上で、ストイックに自分を追い込むスタイル。

学生としてはどうかと思うが、将としては満点の行動であった。


「サイストラグル部の方はどうなんです?」

「ああ、そっちの将は滝壺に変わってもらったわ」

「え!そうなんですか?」


あっけらかんと答える平吉に、李空が目を丸くする。


「どっちみち時間もないしな。滝壺が事情を知った分、説明も楽やったわ」

「滝壺さんが部長なら安心ですね」

「せやな。ちなみに副部長は太一やで」

「それは不安ですね」


あからさまに顔を歪める李空に、平吉は笑って見せた。


「ところで、今日は決勝戦の打ち合わせをするんですよね?」

「せやな。もうすぐ剛堂も来るやろうから、三人で会議やな」

「監督役の剛堂さんと将の平吉さんはともかく、なんでもう一人が俺なんです?」

「そんなん決まっとるやないかい。李空はうちのやからや」


そう言って、平吉がニヤリと笑うのと同時に、


「すまん。遅くなった」


事務所のドアが勢いよく開かれた。


「これで役者は揃ったいうわけやな」

「よし、早速始めようか」


教師としての仕事を終えた剛堂が先陣を切り、平吉が続く。


「なんとなく嫌な予感がするけど、気のせいだよな・・」


その背中を李空も追いかけ、三人は会議室へと向かった。



会議室に入るや否や、剛堂が話を切り出した。


「今日の議題は他でもない。肆ノ国との決勝戦についてだ。期日は約一週間後。決勝の試合形式は、例年通り『星取り戦』だ」


星取り戦とは、一対一の対決を伴う団体戦に多く用いられる形式の一つであり、1チームの選手の数と同じだけ試合を行い、全体の勝敗差で勝ち負けが決まるといったものだ。


今回の出場選手の人数は両国5人ずつであるため、先鋒、次鋒、中堅、副将、大将にそれぞれ振り分けられ、5試合が行われる計算となる。


ちなみに、先に3勝を取ればその国の優勝が決まるが、『TEENAGE STRUGGLE』は央に住む貴族の賭け事でもあるため、戦績に関わらず必ず5試合が行われるのだった。


「本来は誰をどこに配置するのかも重要な戦略の一つだが、ここ最近に関しては考えるだけ無駄だ」

「なんせ、相手は全てを知る男やからな」


平吉が補足を入れ、剛堂が深く頷く。


そう、肆ノ国代表が将。セウズの才は『全知全能』である。

意表を突くようなオーダーを組もうが、相手には筒抜けというわけだ。


「それで今回の大将だが・・・李空。お前に務めてもらう」

「俺が大将ですか!?奇策は無駄って話じゃ・・」

「それはちゃうで。これは大真面目な策や」


何やら得意気な表情で、平吉が横から口を挟む。


「どういうことです?」

「ええか。ワイらは、セウズが大将から外れるんは、ワイら視点では逃げの一手に映る。つまり、肆ノ国がセウズを大将以外に配置する可能性は低いっちゅうわけや」

「事実、過去9年。セウズは全て大将として出場している。今回もそうであると仮定して良いだろう」


今度は剛堂の補足に平吉が頷き、そのまま李空の元へと近づく。


「そして、李空。アイツに勝てるんはお前だけやと、ワイは思っとる」


平吉が李空の両肩を掴み、真っ直ぐに目を見据える。


「任せてええな」


その真剣な眼差しに、李空が取れる行動は一つしかなく。


「はい」


ゆっくりと深く頷いた。


その動作を満足げに眺め、平吉はニヤリと口角を上げる。


「まあ、大将戦までにワイらで3勝して、優勝を決めるつもりやがな」


最後にそう言い残し、平吉はもう用は済んだといったように、片手をひらひらと振りながら部屋を後にした。

おそらくは、先ほどのトレーニングの続きをするのだろう。


その背中を見送り、剛堂が話を引き継ぐ。


「平吉が言う通り、大将戦までに優勝を決めるのがベストだが、そう簡単にはいかないだろう。なんせ、セウズは勿論のこと、肆ノ国は精鋭揃いだからな」

「予選でフードを被ってた人たちですよね?」

「ああ。アイツらのそれぞれが、他の国であれば将を務めていてもおかしくないポテンシャルを秘めている。それに試合の出場機会が少ない分、才の情報も少ない。なかなかに厳しい展開になるだろうな」

「となると、優勝を賭けた闘いが大将戦までもつれる可能性も十分にあるということですね」

「そういうことだ」


経験者の一人である剛堂の話に、李空はゴクリと息を呑んだ。



「それでだ。今日の本題はこの続き。決勝の日までの過ごし方についてだ」


剛堂は改まって李空の方を向き、話を続ける。


「平吉と架純はトレーニングと調整を既に始めている。京夜は新技の開発を、みちるはここの地下での調教に励んでいるようだ」


剛堂が指差すのは、会議室に敷かれた畳。

その下の地下には、サイストラグル用のリングが設置された特訓場があるのだった。


「みちるが地下を使ってるから、京夜は別の場所に移動したというわけですね」

「そんな話をしていたな。どちらも上手くいくと良いんだが・・」


そんな話をしていると、畳の下から低く唸るような遠吠えがうっすらと聞こえてきた。

地下の状況は判らないが、きっとみちるが最後の一匹を飼いならすための修行に励んでいるに違いない。


その声に、李空はテスト前に勉強をしていないような焦りを覚えた。


「剛堂さん。俺は何をすれば・・」


李空の才『オートネゴシエーション』は、相手の才に依存する能力だ。

他の才と違い、試合前に出来ることは自然と限られてくる。


「勿論考えてある。お前には明日から一週間。に修行をつけてもらう」

「三仙人・・ですか?」

「ああ。既に話は通してある。早速明日。この場所に向かってくれ」


そう言うと、剛堂は一枚のメモを李空に手渡した。


「おそらく篭りきりの修行になる。決勝までは学院にも行けないが、良いな?」

「剛堂さん一応教師ですよね?」

「確かに教師の発言ではないな」


李空の問いかけに、剛堂が豪快に笑う。


「まあ、行きますよ。俺も期待に応えたいので」


一礼し、李空は一星寮へと戻っていった。


その背中を見送りながら、


「まずは生きて帰ってこいよ」


剛堂は一人、不吉なことを呟いた。




───翌日。


イチノクニ学院最寄りの駅から電車で暫く北に向かい、そこから徒歩で1時間ほど東に移動した場所に当たる山中。


その場所に、剛堂から預かったメモを片手に歩く、李空の姿があった。


「こんな辺境な場所に誰が居るってんだ・・・」


辺りは見渡す限りの緑。大自然に囲まれたこの場所に、一体どれだけの強者が待ち構えているというのか。

心配と期待が入り混じった顔で、李空は山道を行く。


やがてその景色は田んぼが広がる田舎の風景へと様変わりし、その先に一軒の平屋が姿を見せた。


「ここ・・・なのか?」


その家の前で、李空は不安そうに首を傾げる。


その反応も無理はない。

平屋には張り紙が無数に貼り付けられており、その内容は「最強の力 あります」「あなたの才 強くします」などといった、インチキ臭い謳い文句ばかりであったのだ。


しかし、剛堂のメモと現在地は一致している。


「合ってるぽいっし、入ってみるか」


実に一般的なインターホンを鳴らすが、反応はない。

試しにノブに手を掛けると、すんなりとそれは開かれた。


「お邪魔しまーす」

「・・・・・・・」


声を投げかけるも返事はなく、剛堂が話を通してくれているとのことだったので、痺れを切らした李空は家の中へと侵入していく。


玄関を上がってすぐ。真っ直ぐと伸びる廊下を歩いた先の一室からは、人の存在を訴えるように光が漏れていた。

そこに剛堂がいう人物は居ると想定し、李空は隙間の開いた戸に手を掛けた。


その先にあった部屋は、昔ながらの雰囲気を漂わせる、何の変哲もない居間であった。

部屋の中央にちゃぶ台が置かれているくらいで、その他に明記すべきようなものは何もない。


しかし、どこにでもあるようなその居間には、李空の15年の人生の中でも、ダントツに衝撃的な光景が広がっていた。


「うっひょっひょ!これが話題のVRという奴か!まるで女子(おなご)がすぐそこにおるようではないか!剛堂に頼んだ甲斐があったというもんじゃわい!」


そこに居たのはほぼ直角に腰の曲がった翁であった。

その顔には目を覆うようにして大きなゴーグルが装着されており、翁は何もない虚空上の何かを必死に揉んでいた。


「うっひょっひょ!待たんか〜・・・グハッ」


それから何かを追いかけるように移動し、途中でちゃぶ台に激突。

弁慶の泣き所を強打し、声にならない呻き声を上げながら、転倒。


その拍子にゴーグルが外れ、呆れ顔の李空とばっちり目が合う。


「・・・・・えーと、なんじゃ。観るか?」

「・・・いえ、結構です」

「そうか・・・」

「「・・・・・・・・」」


何とも言えない微妙な沈黙が、居間を支配した。



「えー・・ごほん。わしは三仙人が一人。人呼んで、陸仙人である」


居間の中央に配置されたちゃぶ台を挟み、李空と向き合う翁。

何とか威厳を保とうとしているが、先ほどの出来事の所為で全てが台無しである。


李空は陸仙人なる翁が淹れたお茶をすすりながら、何時おいたましようかと考えていた。


「その目。わしを疑っておるな?」


しわの奥から眼を光らせ、試すような口調で問うてくる陸仙人。


武を極めた者のそれにも見えるが、先ほどの言動からスケベに貪欲なエロ親父のそれにも見える。


「お主。才を見抜く眼を持っておるな?」

「どうしてそれを!?」


次いで放たれた一言に、李空のリアクションは一変した。


「あー・・・あれじゃ。剛堂から聞いたんじゃ・・・」

「そうですか・・・・・」


熱を帯びた目は一瞬で消え去り、冷え切った目を向ける李空。

陸仙人は変なところが生真面目で、嘘のつけない性格であった。


わざとらしく「ごほん」と咳き込み、陸仙人が話の舵を切る。


「えー、修行に入る前に。まずは『サイストラグル』の基礎について、少し話そうかのう」


そう言うと、陸仙人はちゃぶ台の下に手を滑り込ませ、何やらごそごそと動かしだした。


陸仙人に既に「変態」のレッテルを貼った李空は、その行為に身の危険を察知し、反射的にちゃぶ台から距離を取る。

李空の脳裏には、うっふんでお馴染み、エンちゃんのトラウマが蘇っていた。


警戒の目を向ける李空の目前で、陸仙人がちゃぶ台の下から取り出したのは、複数枚のパネルであった。

それぞれに文字や絵が描かれており、どうやら説明用のスライドのようである。


李空は一先ずホッと胸を撫で下ろし、一定の距離は保ちつつも、陸仙人の方に向き直る。


「何を警戒しとるんか知らんが、始めるぞ。『サイストラグル 説明ノ書』始まり始まりじゃ〜」


まるで紙芝居のそれのように、陸仙人による講座は、ゆる〜くスタートした。


「始めに。サイストラグルにおける才の使用は、大きく3段階に分かれる。それとは『インプット・プロセッシング・アウトプット』の3つである」


スライドの裏に書かれているのであろう文字列をガン見しながら、陸仙人が話を進めていく。


「才の性質上、個人差があることは否めないが、この3つを極めし者とそうでない者では、それこそ天と地の差があると言って良いだろう。基礎の習得は、相性の不利を覆す為の必須条件である」


スライド上では、可愛らしくデフォルメされた翁が「ポイント!」と、指を立てていた。

妙に絵が上手いのが、地味に腹立たしいポイントだ。


「して、我々三仙人は、この3ステップの基礎力を向上させる為の、画期的な修行方法を開発した。百聞は一見に如かず、百見は経験に如かず。論を並べるよりも体で覚える方が早い。最初の関門は『陸ノ試練』じゃ。君の成長と武運を祈るぞ」


スライドはそこで終了し、陸仙人はパネルを再びちゃぶ台の下に戻した。


「というわけじゃ。理解したかの?」

「はあ。まあ、なんとなくは」

「剛堂から話を聞いた限りじゃと、お主の才は、この3ステップを忠実に行う『基ノ型』のようじゃ。この修行を終えた暁には、数段のパワーアップが望めるじゃろうよ」


顔には出さなかったが、陸仙人の話に、李空は『オートネゴシエーション』が開花した時のような、胸の熱さを感じていた。


『オートネゴシエーション』の能力は、陸仙人が語る「基ノ型」に忠実に倣ったモノである。


相手の才を入力(インプット)し、それを処理・加工(プロセッシング)、そして武器として出力(アウトプット)、といった流れだ。


スライドにもあったように、基本とは外れた才も勿論ある。

それぞれに得手不得手があり、サイストラグル向けの才は、特に出力(アウトプット)が強力なケースが多い。


例えばみちるの『ケルベロス』は、正に出力特化の才だと言えるだろう。


「そういえば、あまり時間が無いんじゃったな」


李空が湯呑みをちゃぶ台に置いた頃を見計らって、陸仙人が口を開く。


「はい。一週間後に決勝があるので、それまでには」

「そうかそうか。それなら早速始めるかの」

「え?」


次の瞬間。李空の身体を、ジェットコースターに乗った時にふわっと浮くエアタイムのような感覚が襲った。


「うわあああぁぁぁ・・・」


李空の悲鳴が段々と遠くなっていく。


身体を支えていた床は突如抜け落ち、李空は地下深くへと落下していったのだった。

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