第11話 勇者、堪能する

 魔王城の使用人は部署によって若干の違いはあるが、5日間働いたら2日の休暇が与えられる。まだメイド見習いであるマリーにもちゃんと休暇はある。


 今日は仕事が休みのマリー。

 休みの日にはメイド服は着用しない。魔王城には被服専任の者がおり、暇ができるとマリーの普段着を作ってくれる。そのため普段着をすでに何着も持っている。

 今日のマリーは淡いピンク色のブラウスに紺色のふんわりと広がるスカート。この組み合わせが目下のお気に入りだ。


 休みの日は、晴れれば庭で花のスケッチをしたり庭園を散歩する。

 天気がよくない日は部屋でスケッチに色を塗ったり、刺繍をしたり、図書室で本を読んだりする。

 時には魔王や城の使用人達が魔界の街に連れて行ってくれることもあるが、1人で街に出かけることは許されていない。

「魔界に暮らす人間はそれなりにおるが、子供はほとんどいない。ゆえに危険な目に会うおそれもあるのでな」

 以前、マリーが魔王に1人で出かけてはいけない理由を聞いたらそう言われた。マリーは言いつけを素直に守っている。


 今日は曇りで外でスケッチするには少し肌寒い。マリーは図書室へ行くことにした。

 すれ違う使用人達は、みんな笑顔で声をかけてくれる。時には飴玉をくれることもある。飴玉って作るのは難しいのかなぁ?などと考えながら図書室に到着。

「おや、マリーさん。今日はお休みですかな?」

 図書室の管理責任者であるエルフの男性がいつものように笑顔で出迎えてくれた。

 本を何冊か選んで奥の方にあるソファーに陣取る。図書室の職員がひざ掛けを持ってきてくれた。

 近くの窓からは外の景色がよく見える。今日はワイバーンがたくさん飛んでいるようだ。



「今日は何の本を読んでおるのかの?」

 声に気づいて顔を上げるとマリーの目の前には魔王がいたので驚いた。

「ははは、本に夢中で気づかなかったか」

 魔王はマリーの隣に座る。

「今日は魔界の旅行記を読んでいました」

「何かわからないところなどはなかったか?我でよければ教えるが」

「じゃあ…あの、海ってどんなところですか?」

 マリーの生まれた国は内陸の地なので、記憶をなくす前も見ていない可能性が高い。

「説明するよりも実際に見て感じる方がよいであろうから、そのうちに連れて行ってやろう」

「本当ですか?!」

「ああ、南の海辺近くには離宮もあるから泊りがけで行くのもよいかもしれんの。さて、そろそろ読書は一休みして我の茶に付き合うてくれんかのう?ああ、菓子職人がマリーに新作の試食を頼みたいと申しておったぞ」

「はい!」

 マリーは今日も魔王城での休日を堪能した。

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