Pole Star

堡塁夕芽

序章

─── それは、いつかの時代、どこかの世界

           その片隅で紡がれた物語 ───




『誰か…助けて…』



人波を縫う様に、息を切らし走る少女。

長い黒髪をなびかせ、肩で息をしながらも、足を止めることなく、まるで何かに追われる様に、必死に走り続ける。

その光景に、異様なものを感じ、道行く人達の視線が集まる。

何かいるのかと、少女の走って来た道を、首を巡らせ伺う人もいたが、そこにあるのは日常の風景のみであった。

「あっ…」

長い間走り続け、体力も限界に達したのか、足が縺れて派手に転がる少女。

周りの人達の中には、その姿に心配を寄せる者もいたが、あまりに異様な少女の様子に、声を掛けるのを躊躇っていた。

そして、そんな様子を嘲笑する者もあった。

横目で少女の様子を伺いながら、何やら連れを小声で話し、クスクスと笑みを浮かべる。

そんな自分を嘲笑う声だけが、一際大きく少女の耳にこだまする。

少女の瞳には、既に周りの景色は映らず、真っ暗な世界で自分を取り巻く無数の好奇のと、幾重にも重なり響き渡る笑い声が絡みつき、振り払う事も出来ぬ程、身体からだの自由を奪って行く。

力を振り絞り、必死に手を伸ばした。

自分を救い出してくれる「何か」を求めて…

その先に、一筋の光が見えた気がした。



─ 助けて ─

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