人気読者モデルの幼馴染が俺の家に入り浸って○○○の特訓をしている件。~そんなに際どいポーズを見せるな……でも結局かわいい~

花氷

夢を生んだ幼馴染

 帰宅部の俺は、誰もいない家でアイドルのDVDを鑑賞するのが日課だ。


 しかし、その至福のルーティーンをぶち壊す奴が現れた。


 ピーンポン、ピンポン、ピンポン、ピンポ、ピン、ピ、ピ、ピ、ピ――


 あーうるさい‼


 普段なら宅配業者の訪問ですら無視するが、あまりにも執拗しつように鳴り響くインターフォンに嫌気がさし、俺は乱暴に玄関のドアを開けた。



「何がご用件――わっ⁉」



 玄関扉を開けると、目の前にうざいほど毎日見る顔――幼馴染の夢生むうがいた。



「な、なんだよ突然! てか近っ」

亮介りょうすけ~、助けてぇ~!」



 夢生はそういうや否や、俺にぎゅっと抱きついてきた。

 高校2年生とは思えない巨乳がむにゅっとあたり、身体が一気に熱くなった。


 サロン帰りかと思うくらい艶やかな髪からは、フラペチーノのような甘い匂いが漂っていて、頭がくらくらしそうになった。



「ちょ、おま、やめろって!」

「え~、だってぇ!」



 これ以上抱きつかれると色々ヤバかったので、夢生を身体から無理やり離した。


 高校生になってから急に(身体だけ)大人びた夢生への耐性が、最近弱くなっているのが俺の悩みだ。



「……んで、俺の平穏な放課後をぶち壊してまで何を助けろと?」

「夢生、特集号が決まったの!」

「と、特集号?」



 一瞬なんのことか分からなかったが、すぐにだと察した。



「そ、それは良かったな」

「それでね、評判が良かったら専属になれるんだって‼ だから特訓しに来た‼」

「……は? なんで俺?」

「え~、だって、亮介ドルオタじゃん。女の子のかわいいポーズ、熟知してるでしょ?」

「い、いや、アイドルとそれは違うだろ……」

「いいから、いいから~」



 こうして俺は夢生に腕を強引に引っ張られ、そのまま俺の部屋まで連行された。



***



 夢生は、ティーン雑誌『chiffon』の読者モデルだ。

 都内に遊びに行ったときにスカウトされ、今や専属モデル並みの人気を誇っている。


 そんな夢生に、専属昇格のチャンス。きっと夢生も気合いが入ってるに違いない。


 それはいいんだけど――



「ちょ、おま、何してんだよ! りりあんの衣装に勝手に触んな!」

「えー、いいじゃん! かわいいお洋服でポージング練習したいんだもんっ」



 夢生は、俺の大事なアイドルの衣装コレクションを物色している。


 実は俺は、アイドルが好きすぎて自分で衣装を作ってしまう。材料費はハンパないが、バイト代を全部つぎ込んでも大好きな子の衣装を手に入れられるなら本望だ。


 そんな手塩にかけた衣装たちを勝手に着られるなんて――



「……っておい! ここで服を脱ぐな!」

「え~、いいじゃんっ。昔は一緒にお着替えしたでしょ?」

「それは5歳の時だろう!」



 俺の部屋で下着姿にでもなられたら、理性が奈落に落ちる。

 俺は慌てて後ろを向いた。



「ね~、着替えたよっ。どうかな?」

「そうかい、どうせ実物のりりあんより……えっ」



 ピンクのフリフリの衣装に身を包んだ夢生。

 胸囲がパツパツで推定Fカップの巨乳が溢れ出そうだ。


 そしてミニスカから伸びるすらっとした足、綺麗に浮き出ている鎖骨。


 ……こいつ、いつの間にこんなにかわいくなりやがったんだ。

 りりあんよりかわいいじゃねぇか!



「ねぇ、このポージングかわいいかな?」

「胸の谷間、見えてるわ!」

「やだぁ~。亮介のえっちぃ~」



 『えっちぃ~』はどっちぃ〜だよ、まったく……。



「じゃあ、こうは?」



 今度は床に女の子座りをして上目遣いを繰り出す夢生。


 大きな瞳がキラキラと輝き、むっちりとした太ももが男の本能を誘惑してくる。

 そして、推定Fカップを上から見るの最高……。


 なにこれ、超絶かわいいんですけど! 写真撮りたいんですけど!



「……ま、まあ、いんじゃね」



 俺は心の興奮を抑え、素っ気なく答えた。



「むぅ。じゃあ、これは?」



 頬をぷくりと膨らませた夢生は、いきなり俺のベッドの上に飛び乗った。



「お、おい、何してんだよ!」

「かわいいポーズ、ファンの子に見せたいんだもん! まずは亮介に『かわいい』って言わせたい!」

「お、俺は言わねーよ……」



 夢生はベッドに寝転び、ウルウルとした目で俺を見つめてきた。

 先程のあどけないかわいさとは違い、大人の妖艶さまでかもしている。


 ……夢生、いつの間にそんなに上手くなったんだ?


 正直、初めて夢生を雑誌で見た時は、表情がぎこちなく、他の子と比べても特徴がなかった。ドルオタで女の子の審美眼がある俺からすれば、没個性と言わざるを得ないほどに。


 しかし、今はどうだ。


 他の子よりも大きい瞳を最大限に生かし、コンプレックスだった巨乳を武器にしている。そして、かわいらしさから大人っぽさまで幅広く見事に表現しているのだ。


 俺はベッドでエロいポーズを決めている夢生に、妙な賢者モードのまま(なんか感心したらそうなった)尋ねた。



「なぁ、夢生。なんでそんなに上手くなってんだ?」

「え⁉ ポーズ上手?」

「ま、まぁ……」

「わ~い! 嬉しい!」



 夢生はそういうと、俺にぎゅっと抱きついてきた。

 せっかく凪いだ気持ちがまた沸騰してしまう危機を感じ、慌てて離れる。



「ちょ、待てって……」

「夢生ね、『chiffon』が大好きなの!」

「え?」



 夢生はそういうと、俺の本棚に駆け寄って1冊の雑誌を持ってきた。


 それは夢生が初めて雑誌に載った号。開いたページには、ぎこちない表情をする没個性な夢生が載っていた。



「夢生ね、最初はどうしていいかわかんなかったの。モデルはきついポーズもたくさんするし、他の子みたいにうまくもできないし、楽しくなかったの」

「……そうなんだ」

「でもね、ある時に読モ仲間のまやちゃんが言ってくれたの。『うちら、読者の代表なんだから、読者が楽しめるように頑張ろうよ!』って。それで、モチベーションがすごく変わったんだよ!」



 『まやちゃん』という名を俺は初めて聞いた。

 夢生と幼稚園から高校までずっと同じ学校の俺は、夢生の交友関係は大体把握しているつもりだった。


 だけど夢生は、俺の知らない世界に飛び込んで、新しい仲間を作った。

 そして刺激を受けて、成長しようとしている。


 ……なんだか、少し遠い世界にいるみたいだ。



「それでね、その日から読者の子に楽しんでもらうにはどうしたらいいか研究したんだ! 他の雑誌もいっぱい読んで読者の気持ちになってみたり、苦手だったジャンルの服を着てみたり、毎晩鏡の前でポージングの練習をしたり。それに読モの仲間とも一緒にたーくさんお話して、研究したんだ! そしたら、どんどんファンレターを貰えるようになったの!」



 夢生は、俺がドルオタ活動に勤しんでいる間もたくさん努力してたんだ。

 ただかわいいから売れてきたわけじゃない。今回特集号が組まれたのも、夢生が頑張って勝ち取った結果なんだ。


 そう思ったら、俺も夢生に協力したくなった。



「よし、じゃあ、特集号の撮影まで俺もサポートする!」

「本当に⁉ 特集号は個人企画もあるから困ってたの。亮介大好きぃ~」

「お、おい、ちょ……」



 むにっとする胸の感触を確かめながら、俺は夢生の特集号を絶対に成功させることを心に誓った。



***


 

 あれから数か月。夢生の特集号は前月の1.4倍の売上を記録し、夢生は見事に専属モデルに昇格した。

 今日はそのお祝いとして、夢生が家にやってくる。


 ピンポーン、ピンポン、ピンポン、ピンポ、ピン、ピ、ピ、ピ、ピ――


 相変わらずやかましいチャイム。でも、今日はなんだか嬉しかった。


 俺はいそいそと玄関のドアを開けた。



「亮介、ケーキ買ってきたよ!」

「ありが……え」



 現れたのは、を着た夢生だった。



「ど、どうしてこれを着てきたの?」

「だって、この衣装、だーい好きなんだもんっ」



 夢生の長所は、性格はあどけないのに身体が大人びているところ。本人は、巨乳は女の子に不人気だからとコンプレックスに思っていたけど、俺はそれを最大限生かしたいと考えた。


 そこで俺は、夢生のために衣装を作った。

 パステルな色彩でクラシカルなフォルムのワンピース。身体のラインは女の子に引かれないレベルで大人っぽく強調し、色合いは桜色と空色のグラデーションで夢生らしく仕上げた。



「それに、この衣装大評判だよ!」



 そしてなんと、夢生が俺の衣装を着た写真が好評で、表紙にまでなったのだ。

 少しでも夢生のためになれたなら、嬉しい。



「ま、まあ、それならよかった。でも、一番評判だったのはだろ?」

についてはファンの子からたくさんコメント貰っちゃった!」



 とは、夢生の個人企画のエッセイだ。


 おバカキャラだった夢生があるテーマについて綴り、様々な写真と共に彩ったページが大反響を呼んだ。このエッセイで鮮烈な個性を発揮できたことが、専属モデルになれた大きな要因の1つだと思う。



「夢生、今度は『chiffon』でエッセイの連載も決まったの!」

「え、それはすごいな……」

「うん! 今度はエッセイ本を出せるように頑張るね!」



 夢生が書いたエッセイのタイトル、『私と読者と仲間たち』。


 自分が読者モデルになった当初の苦悩、仲間や俺から励まされた出来事、そして読者への熱い想い。その1万字の夢生の気持ちが、全国の読者へ届いた。



「亮介のおかげだよ! だーい好きっ! これからもよろしくね」

「お、おう……って近いって! ……頑張れよ」



 夢生は夢を叶え、また新たな夢を生んだ。


 俺は、夢生の夢をこれからも全力で応援したい。

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人気読者モデルの幼馴染が俺の家に入り浸って○○○の特訓をしている件。~そんなに際どいポーズを見せるな……でも結局かわいい~ 花氷 @shiraaikyo07

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