HELLO, GAMERS!~元格ゲー世界一、謎VRMMORPGに挑む~
ジョージ・柿句
HELLO, GAMERS!
Phase 1 凋落スタートはRPGの定番です
レベル1
――事の発端は一ヵ月前にさかのぼる。
「でたぁ! ヤマネコラ~ッシュ! ズーティ得意のガードパリィで応戦するが、その巨体が仇となった! 画面端から一ドットも動けない~!」
「ヒャッ、ヒャッハ?」
ゲーム大会では定型句となった山鳥タクミへのアナウンスで会場中が沸いた。
対戦相手は悲痛な悲鳴を上げる。
「
そんな声が会場の観客席から聞こえたが、ステージ上の俺にとってはすべてが復活と栄光への軌跡であった。
二年前、様々な悪評を糧に、世界一にまでとたどり着いたという自負もある。
「ズーティのガードゲージもついにゼロになった! このままでは全ての攻撃でHPが削られる! どうするズーティ。いや、何もできないのか。削れる、削れていく~!」
これがただの野試合、ゲスト出場ならば手を緩めるところ。
そうでなければ元世界チャンピオンが弱い者いじめを楽しんでいるように見られかねない。
スポンサーからも「たまには負けて来い」「観客と挑戦者に期待を持たせてやれ」と忠告も受けている。
しかし、この大会は全日本へと続く地区代表決定戦。万に一つも落とせない。
本戦優勝者には、賞金三百万円。さらに世界大会の行われるロスまでのビジネスクラス航空券と滞在費が贈られる。
「お前の動きは攻略済みだ!」
勝利を確信した俺は、決めセリフを発した。
画面端まで追いやられたズーティは脱出できない。苦し紛れの大ジャンプ逃げなど、俺の反応速度で叩き落す。
「苦し紛れの逃げをジャンプ投げで叩き落した! ズーティ再び画面端!」
女性解説者が叫ぶ。
「やっぱりスゲェ」「反応速度が凄すぎる」「世界チャンプ返り咲きもあるぞ……」
観客席も俺の魅せプレイに騒然となった。
四ヶ月のブランクがあるものの、否が応でも世界ランカーへ返り咲きを果たさねばならない理由があった。
「決まった! 最後までHPを削り切った。ヤマネコという二つ名を持つファリスが再び日本の頂を視界にとらえたか!」
「元世界一の意地ですね」と、悪魔っ娘コスプレ姿の女流プロによる解説も続く。
予選グループリーグはほぼパーフェクト勝利。
この決勝トーナメント二回戦も、地区大会常連のプロゲーマー『モヒカン男』に完封勝利。
(俺のレジェンドは再びここから始まる……)
シード権を有していた昨年までだったら、このような地方予選に出場する必要などなかった。
しかし、勝てば気分が高揚するのはどんな小さな大会であっても変わりない。
(少ないけど賞金も出るしな……)
(帰りに美味しい寿司でも食べよう……)
などと勝利の余韻に浸っていると、敗者モヒカン男が歩み寄って来た。
「俺にもメシおごってくれよ……ヒャッハ~」
どうやら相当気落ちしているらしい。いつもの奇声にも勢いがない。
「まだ、敗者復活戦が残っているだろ。頑張れよ!」
「ヒャッハー! 俺にはまだ敗者復活戦が残っていた!」
もっとも、敗者復活戦の結果がどうであろうと、俺の返答は「NO」であるが。
格闘ゲーム『ファントムセイバー』のキャラクター『ゾンビ・ガリガリチェーン』のコスプレ姿の成人男性、つまりモヒカン頭のヘビメタ衣装と一緒に、寿司屋のカウンターに並んで座りたくない。
叫び声もウザいし。
「ところで次の対戦相手、ケイタって奴、アマだがマジッパねぇぞ!」
「今の俺に強敵などいない! と言いたいところだが、ケイタって誰?」
過去の大会ではシード権を有していたため、地方参加者の詳細までは知らない。
しかし、今の俺にはブランクがある。不安になって当然か。
俺のデフォも小心者だし。
モヒカン男に「あいつ」と指をさされて視線を馳せる。
色あせた野球帽によれよれの開襟シャツを着た少年。
「ガキんちょじゃねえか!」
俺の準々決勝の相手はどう見ても小学生。身長も一三〇くらい。
出場選手登録を調べてみると、やはり小学五年生だった。
「格ゲーに大人も子供もないだろ? それにあのケイタ、地区だと割と有名人だぞ。地区のジュニアで二連覇。今年からエリートクラスにも出てきた。しかも今年はここまで無敗!」
「マ、マジっすか……?」
☁
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