固定資産現所有者申告書が届いた。

@genesis21

第1話 固定資産現所有者申告書が届いた。

令和3年某月某日。

家に帰ってみたら静岡県某市──仮に御茶国市とする──の市役所から封書が届いていた。役所がよくつかう窓の向こうに住所氏名が記載されて透けて見える奴。普段全く付き合いのない御茶国市から、「岩田ハジメ様」と確かに自分宛に封書が届いている。表に「固定資産税・都市計画税」としっかり書かれ、「重要」とまで念押しされている。

これはサギかいたずらか。封を切って中を検めると、いかにも役所の文書という感じで市長名の手紙が。「固定資産現所有者申告書の提出について」と書かれている。

え、御茶国市に固定資産なんぞあったっけ自分。絶対ないぞ、と思いながら二枚目をめくると、「固定資産課税台帳に登録されている所有者」としてどこかでみたような名前──仮に清水太郎とする──が書かれていた。

この名前は、と思い出してああと得心した。これは、祖父の名前だ。


実は私には祖父が三人いる。

母方祖父と、父の養父、そして父の実父。父は一歳に満たないころに養子に出ており、養父母が育て、社会人になった。母と所帯を持って子供が産まれ、それが私と弟妹ということになる。父の実父母とは全く付き合いがなく、父が死んで相続が発生し父の戸籍をしっかり見るまでこの経歴のことは知らなかった。父の養父母のことを血縁者と信じて疑っていなかったので、かなりびっくりしたものだった。

その時一応実の父母の名前は把握していたので、名前を見て記憶が蘇ったというわけで。実祖父がおそらくは身罷り、相続が発生したので役所が相続人である父の戸籍をたどり、父の代襲相続人である私にこの書類を送ってきた、そのように理解した。


しかし、よく考えると少しおかしい。

実祖父には他にも子供がおり、養子に出したりはしていない子供もいたはず。死亡が発生したらさっそく相続人全てにこういった書類を送りつけるほどに役所が仕事熱心だとは思いにくい。よく読むと、「相続人の中から『現所有者の代表者』を決めていただく必要がある」と書いてある。さらに、「一部の相続人が、太郎さんの資産の相続を放棄された」とも記載がある。

これは、相続がモメている展開か? 夜も遅かったが一応起きているだろう弟妹にも電話してみた。書類が届いているか確認したが、届いていない由。

とりあえず現状ではWikipediaに書いてある制度の紹介程度のことしかわからない。明日は役所に電話しよう、そういうことにして休むことにした。父の相続の際に入手した父の戸籍謄本のコピーを母からもらってあったので、それは戸棚から引っ張り出したが。


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