第23話 女神ーずとの打ち合わせ
ボクと村上会長は、女神ーずのメンバー、手世姉さん、高坂さん、川島さんと映画音楽についての打ち合わせをすることにした。
で、ファミレスに集まり、5人で昼食を取った。
食事をしながら、自己紹介や世間話をした。
「よろしくお願いします、愛詩さん、高坂さん、川島さん」と会長が言ったら、「あたしたち、大学3年同士じゃん。堅苦しい丁寧語とかいらねぇ。タメ口でいこうぜ」と姉さんが返した。
「そういうことなら、頼むぜ、愛詩さん」
「愛詩さんもやめてくれ。ここには愛詩が二人いる。あたしのことは手世でいい。妹のことは普段なんて呼んでるんだ?」
「愛詩と」
「ここでは輝と呼んでくれ。まぎらわしいから」
「わかった、手世さん。愛詩、輝って呼ばせてもらうぞ」
会長が、ボクに向ってアイシテルって言った。うれしい! 名前呼びもいいね。
食事が終わると、会長は3人の女神たちにシナリオ決定稿を渡した。村上くん抜きの登場人物5人のものだ。
そして、5万円が入った封筒を姉さんに差し出した。
「金はいらねぇと伝えたはずだが」
「俺は女神ーずにこうしてほしいという注文をする。あなたたちは自由に作曲するわけじゃない。だから、受け取ってほしい」
「わかった。となると、額が少ないが、まぁいいよ。ちょっとシナリオを読まさせてもらう。話はそれからだ」
3人はシナリオに目を通した。
「うん。さすが輝のシナリオだ。神だな」
「なかなかよく書けてるわね」
「手世ちゃんの妹さん、すごいです。わたし、感動しました」
誉めてもらえて、素直にうれしい。
「俺からの注文を言う。4曲作ってほしい。オープニング主題歌とエンディング主題歌、そしてインストルメンタル2曲だ」
「うん。イメージを伝えてくれ」
「まずオープニングのタイトルは『シンギュラリティ』。これは手世さんの歌で、アレンジは電子音楽でお願いしたい」
「なんだとぉ。あたしたちはアコースティックバンドだ。女神ーずの全否定じゃねぇか。とうてい受け入れられねぇ」
「『シンギュラリティ』は未来的なイメージの作詞作曲をしてほしい。当然、アレンジは電子音楽が望ましい。そして手世さんの歌詞とメロディがほしいんだ。女神ーずの否定をしているつもりは微塵もない」
「手世ちゃん、わたし、DTMができます。エレクトロニカアレンジはわたしに任せてください」と川島さんが言ってくれた。
「DTMってなんだ?」
「デスクトップミュージックのことですよ。作曲アプリを使って、パソコンで音楽を作るんです。手世ちゃんも現代のミュージシャンなんだから、それくらい知っておかないとだめですよ。作詞作曲は手世ちゃんがしてくださいね。弾き語りの録音をわたしにください。それから、DTMで編曲します」
「おう。そういうことなら、いいぜ、電子音楽で。あたしたちの音楽の幅も広がるしな」
「助かる。頼むよ、川島さん」
「はい、任せてください」
川島さんは誰に対しても丁寧語を使う人のようだ。
「次にエンディングだが、タイトルは映画本編と同じく『愛は理解不能』。泣ける歌がほしい。アレンジは女神ーず本来のスタイルでお願いしたい」
「任せろ。泣ける曲は得意だぜ」
頼むからコミックソングにしないでほしいと思ったが、言わなかった。姉さんの機嫌を損ねるわけにはいかない。
「では次に、インストルメンタルだ。1曲めのタイトルは『アンドロイドのテーマ』。クールな電子音楽にしてほしい」
「また電子かよ」
「わたしに作曲編曲を任せてほしいです。わたしも曲を作ってみたいです」
「いいね。ルビー、やってみろよ。おまえのセンスなら、いいのができるぜ」
「川島さん、俺からも頼む。いい曲を作ってくれ。条件はまだある。メロディは8小節か16小節の循環音楽として、どこまでも長くできて、8の倍数のどこでも終わらせられる曲にすること。映画音楽のBGMとして、曲の長さを調節できるようにするためだ。8か16小節ごとにアレンジは変えて、飽きさせないようにしてほしい。48小節作ってくれ」
会長、ちゃんと音楽のこと考えているんだな。ボクだったら、こんな注文はできなかったよ。
「了解しました。その条件で作ります」
「頼みます」
会長は川島さんに頭を下げた。
「最後にインストルメンタルの2曲め。タイトルは『人間のテーマ』。アコースティックな曲で温かみと激しさが両方あるのがほしい。これは何小節になってもいい。ただし、映画の中のどこでフェイドアウトさせても怒らないでほしい。もちろん曲を最大限活かすように努力する」
「トランペットが前面に出てもいいかしら」と高坂さんが言った。
「もちろん。高坂さんのトランペットなら大歓迎だ」
「なら、私が作曲するわ。アレンジはメンバー全員で。手世、いいかしら」
「いいぜ。麗美の曲をあたしも聴いてみたい」
「よろしくお願いします」
藤原会長が女神ーずに深々とお辞儀した。ボクも頭を下げた。
「輝、おまえからは何か注文はないのか。今、言っておけよ」
「あ、じゃあ、ポンコツな歌詞は作らないでね」つい本音が出てしまった。
「なんだとぉ。妹でも許さねぇぞ。あたしがポンコツな歌詞を作ったことがあるかよ!」
いつも作ってるじゃん、とは言えない。
姉さんのセンスを受け入れるしかないね。あの歌詞が姉貴の持ち味だ。
「ごめんなさい。シナリオの意図を汲み取ってほしいという意味で言っただけ。ボクはこんな未来が来てほしくないという願いを込めて、戦争が起こるストーリーを書いた。歌詞はストレートな反戦歌は嫌だけど、平和への願いと愛が感じられるものにしてほしい」
「いっそ、歌詞は輝が書いたらどうだ?」
「それはだめ。映画は総合芸術だから。いろいろな個性を、この映画の中で調和させたい」
「そっか、わかった。さすがあたしの妹だ。いいことを言う。藤原、大切な妹を使って、下手な映画を作ったら許さねぇからな」
「絶対にいい映画を作るよ。参加した人全員が誇りに思えるようなやつを」
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