第9話 大学生愛詩輝。サークル活動したい。

 春休みが終わり、ボクは大学生になった。

 愛詩輝18歳の春。新しいことを始めたい。

 サークル活動をしたい。

 創作系サークルに入ることに決めているよ。

 候補はいくつかある。

 王道の文芸部。

 最近はまっているSF研究会。すごく気になってる。会室には絶対行ってみるつもり。

 漫画研究会。絵は描けないけれど、漫画は大好き。

 アニメ愛好会。

 映画研究会。

 俳句愛好会なんてのもあるんだね。多彩だ。

 大学のキャンパスはにぎやかで、あちこちで先輩方が新入生に入部の勧誘をしていた。ポスターもいっぱい貼ってある。

 文芸部のポスターに見入っていると、声をかけられた。

「文芸部に興味あるのかな?」格好いい男の人だ。

「ボク、文学部の日本文学科なんです。当然、興味ありありです。作家志望ですっ」

「いいねえ。ぜひうちに入ってよ」

 さわやかなイケメンで文芸部の先輩って。くはぁ、これはもう決まりかな。

「ちょっと、京介、女の子ばっかり集めるのはやめて」赤縁眼鏡の美女が現れた。

「ボクが文芸部のポスターを見てたんです。興味あるから」

「そ。でも文芸部は定員オーバーなの。新入部員はもういらないから」

「え。部活に定員なんてあるんですかぁ?」

 ボクはあっけにとられた。

「うちはプロの小説家をたくさん輩出しているエリート部なの。人気高いけど、部室狭くてさ。今年の新入部員の定員は10人。もう締め切ったわよ」

 ガーン。

「おい、絵玲奈。定員なんて決まってないだろ」

「いいのよ、ああ言っとけば。ほら、行くわよ。定例会が始まる。遅れると部長が怒鳴るから早くっ」

 美女は美男を連れて行ってしまった。

 なんだったの?

 ボクは気を取り直して、SF研の門を叩くことにした。

 部室棟の片隅にそれはあった。

「SF研究会。またの名を未来哲学研究会。来る者は拒まず。去る者は追う。覚悟して入られよ」と玄関に墨書してあった。怖い。入るのやめようかな。

「お、かわいい女子はっけーん。入って入って」

 後ろから声がかかった。男の子の低い声。

 でも彼はボクより小柄なベビーフェイスの男の子だった。かわいいのはどっちだよと言いそうになった。

「おれは村上劉輝。もちろんペンネームさ。1年生。国籍は中国。留学生なのよん」

「ボクは愛詩輝。ペンネームじゃなくて、本名だよ」

「あれ、きみ男の子?」

「女だよ。よく間違われるから、腹も立たない」

 村上くんはSF研の玄関を開けた。

 中には男ばかり5人がパイプ椅子に座っていた。

「ちはーす。新入会員?を連れてきましたぁ」

「初の女子会員!」

 先輩?の男性たちがガタガタっと立ち上がった。

「好きな作家は?」

「映画の話だけど、2001年宇宙の旅とスターウオーズ、どっちが好き?」

「海外SF遍歴を述べよ」

「2050年夏、熊谷の最高気温は何度だと思う?」

「今年のノーベル文学賞は誰が受賞するか予想せよ」

 びっくり。いきなり5方向から質問が飛んできたよ。

「好きな作家は伴名練様。SF映画はあまり見てません。あ、でもブレードランナー見ました。雰囲気がよかったです。インターステラーも好き。あれ、意外と見てるのかな。海外SF小説は読んだことがありません。おすすめを知りたいです。熊谷はこれ以上気温が上がったら嫌ですね。最高気温、45度は行くかなー。ノーベル文学賞は村上春樹様に受賞してもらいたいです」スラスラっと答えた。ボク、厩戸皇子かしらん。

「合格。伴名練を知っている美少女。申し分なし。はい、ここにサインして」

 ボクの目の前に入会届が突き付けられた。

 愛詩輝、と書いた。

「偽名、ペンネームは不可。本名を書け」

「本名ですっ」

 どこでも言われるんだよね。

 というわけで、SF研に入った。

 村上劉輝くんがかわいかったのが決め手です。

 ボクはここでSF修行をしたいと思っているけれど、男の子と楽しく遊びたいのも本音。

 村上くんと仲よくなれたらいいな。

 なんて、無邪気なことを考えていた。

「おれは漢王朝の劉氏の末裔で、中国の超富裕層の一族の子なんだよね。日本SFを学んで、中国SFを発展させるつもり。でも、もう中国には劉慈欣の『三体』があって、ヒューゴー賞を取ってて、日本SFを超えてるから、留学しなくてもよかったんだけどね。まぁ、日本で遊びたくて、来ちゃった。おれと遊べば、旨い食い物とお酒がもれなくついてくるよん。どう、輝ちゃん、今夜あたり、中華街行って、一晩中遊ばない?」と彼が言って、引いた。

 SF研で真摯で紳士な男の人がいたらいいんだけど。

 癖のある男性ばかりに見える。

 入会届にサインしたの、早まったかな。

「村上、劉慈欣は確かにすごいが、日本には伊藤計劃がいた。早逝しちゃったけどな。円城塔もいる。日本SFなめんな」

 村上くんを睨んだ男の人は、身長180センチを超えている。強面でつり目だけど、ちょっと格好いい。海外SF遍歴を述べよ、と言った人だ。

 彼の名は、小牧和人。二年生。

 ボクは固唾を飲んて、村上くんと小牧さんを見ていた。

 小柄な村上くんは臆さない。

「日本は落ち目の国。中国は覇権国家。おれが日本文化を買い占めてやりますよ。日本人は中国の方を向いて創作するようになる」

「創作もビジネスだからな。売れなきゃ話にならん。せいぜい高く買ってくれ」

 小牧さんは落ち着いている。

 他のメンバーはにやにや笑って二人のやりとりを見守っていた。

 お、面白いじゃん、SF研の人たち。

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