第9話 寝不足

「着いたぞ。」


 あれから十五分ほど歩いてマンションにたどり着いた。

 あおいはよっぽど疲れたのか俺の背中で眠っている。起きる気配が全くない。


「仕方ない。部屋まで連れて入るか。」


 そして、碧の部屋へ入る。

 その部屋は荷解きをほとんどしてないせいか、夕方に設置したベッドが一つとあとは段ボールしかなく、とても殺風景さっぷうけいだ。しかし、綺麗好きだから荷物は整頓されている。


「よいしょっと!」


 碧をベッドに乗せる。決して重かったというわけではない。まぁ重くても思いとは言えないのだが。。

 まぁ誰しも経験はあると思うが、自然と声が出た。ただそれだけのことだ。


「これでよし!帰ってシャワー浴びて飯食べて寝るかあ。」

 

 そして、碧に布団を掛け、部屋に戻ろうとしていると・・・


「えっ!?」


 後ろから腕を引っ張られベッドに引き込まれた。幸い碧にはぶつからなかったが目の前に碧の顔がある。

 

(か、顔が近い。)


 碧の無防備な顔を見ると変な気持ちになる。心臓の鼓動がうるさい。


「むにゃむにゃ.....傑。おやすみー。」


(起きてるのか?)


 その一言を聞き、確認する。


(そ、そうだ。これは寝てるかの確認なんだ。決してやましい事ではない。手っ取り早く確認するのはこれがいいんだ。)


 そう心に言い聞かせながら碧の胸を触る。


 若干息遣いが荒くなった気がしたが気のせいだろう。ぐっすり眠っているようだ。


(でも、これは離してくれないだろうなぁ。このまま寝るしかないか)


 そのまま、眠りにつく。




一時間後



「ね、寝れない。むしろこんな状況で寝れる方がおかしいんだ。」


 そう、俺は長年女子と関わってないせいで耐性がなくなっている。

 それに、この添い寝で抱きしめられている状況から抜け出すには起こすしかない。

 しかし、ぐっすり寝ている彼女を起こすのも気が引ける。だからトイレか何かで起きるのを待つしかないのだ。





「結局眠れなかった。。」


 そう、あの後ずっと待っていたのだが起きる気配はなく、朝になってしまった。


(地獄だ。碧は授業中に寝るのを許さないだろうし。最悪だ。)


 そう考えていると・・・


 碧と目がバッチリ合った。


「な、なんですぐるが私のベッドに潜り込んでるの?」


「なんだよその言い草は。この状況を見ろよ。俺は碧にベッドに引き込まれて抜け出せれなかったんだよ、」


 すると、碧は顔を赤らめた。


「ご、ごめんね。昨日も今日も迷惑かけて。」


「それはいいとして、今日は授業中に寝る事を許可して頂けないでしょうか?」


 俺は、この元凶げんきょうである碧に聞いてみた。


(さすがに今日ぐらいは許してくれるだろう。いや、許してくれないと困る。)


「いくら寝れなかったからといっても授業中になるのは無し!休み時間に寝なさい!」


「そんなぁ。。」


 

 そして今日は俺が作った朝食を食べ、二人で一緒に学校へ登校した。


「よぉ傑。また篠崎しのざきさんと一緒に登校か。」


「おはよう。傑くん。」


「おはよう。修一しゅういちわたる。」


 いつもの事ながら碧関係の話が絡むと修一の言うことは妬みにしか聞こえないんだが。

 航はいつも通りかわいいなぁ。言っておきますが、俺はホモではありません。


「おはようございます。如月きさらぎさん。末谷すえたにさん。」


 碧が二人に挨拶をする。

 そこまで礼儀正しくする必要はないと思うんだが。皆の前では清楚でいこうってことか?


「俺の事は修一でいいぞ!皆そう呼んでるし!」


「僕も航でいいよ!傑くんの幼馴染なんだし、僕たちとも友達みたいなものでしょ。」


「わかりました。修一さん、航さんと呼ばせていただきますね。」


 碧がそういうと二人は顔を赤らめた。照れているようだ。そりゃそうだろう。

 清楚系美少女が自分の名前を呼んでくれるんだから照れるのは当たり前だ。

 俺は碧と幼馴染ではなかったらめちゃくちゃ照れていたんだろうが。。


 

 そんなやり取りをしていると授業開始のチャイムが鳴った。


 ガラッと音を立てて扉を開き先生が入ってくる。そして点呼を取り、授業が始まった。



「あぁ...休み時間十分とか短すぎるだろ。」


 そして、眠気を耐えられなくなった俺は、保健室のベッドを借りて寝ることにした。

 そう、どこの学校もそうなのかもしれないがこの学校のベッドはとても質がいい。

 保健室を利用する一部の生徒の中ではこれは有名なことなのだ。


 一時間目の授業が終わりその休憩時間に碧につかまらないように教室からうまく抜け出した。


「失礼します。二年A組の神崎傑かんざきすぐるです。ちょっと体調が悪いのでベッド貸してください。」


 そう保健室の先生に伝え、許可を貰ってからベッドに入り、仕切り用のカーテンを閉める。

 そして、ただひたすら寝る。



五十分後


 ガラッと開いた扉の音にビックリして飛び起きる。そして、勢いよくカーテンが開く。

 するとそこには般若はんにゃのような顔をした碧が立っていた。








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