堅実なにんじんさんのブログ小説
だいこん・もやし
第1話 スマホの王様
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ブログ〜堅実なにんじんのブログ小説〜
タイトル「スマホの王様」
著者にんじん
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先日の出来事なのですが、大変驚きました。
「これが最新機種ですか?」
だって、そのスマホは……、スマホは……。目に見えないのです!
まあ以下に詳細を書きましたので、ご覧ください。
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私は堅実なので、モノ持ちが良い方です。今使っているスマホも、使い始めて早3年。
あー、この3年間、色々ありました……。
【おにぎりさん】という名前をつけて、可愛がっていますが、ポケットから落として画面を割ってしまったこともありました。
愛犬のトイプードル【のり】にガブリとされる、なんてこともありました。
写真やキズ、すべてに私の3年間の思い出が詰まっています。
その大切なスマホをですよ!ついに買い換えようと決意しました。
どうやら、1年前の画面キズをつけた頃から、【おにぎりさん】の調子がおかしくなって、バッテリーも1時間ほどしか持たなくなってしまったようです……。
「できるなら、あと2年、せめてもう1年一緒にいたかった……」
それはもう、生半可な想いじゃないですよ。悲しくて悲しくて涙が滲んで、震えそうでした。
後髪を引かれるような想いで、近所の某ケータイショップに行き、新しい相棒を探していました。
涙を堪えながら。
すると横から、ぽっちゃりの店員さんが、優しく声をかけて来られました。
「このスマホ、安くて人気の機種なんですよねえ〜」
「ええ、はい……。そうですよね。安いですねえ」
最初はちょっと警戒しながら、堅くやりとりをしていました。きっと、私の顔はガチガチの岩盤みたいだったことでしょう。
でも、この店員さん、とても優秀でした。
ガチガチの私に、朗らかに、でも穏やかに話を続けてくださいます。
「安いですよね。バッテリーの軽量化に成功して、生産コストが安く済むそうですよ」
「そうなんですね。バッテリーですか、でも長持ちしなさそうなのが心配ですねえ……」
「たしかに、その通りです。お客様、バッテリー長持ちのスマホをお探しですか?」
「ええ。今のスマホはこれです!この【おにぎりさん】を3年くらい使って、バッテリーが限界で。もうそろそろ替え時かなあと」
「なるほど、長く使われたんですね。名前までつけられて、大切にされていて素晴らしいです。私どもも、長くお使い頂いているお客様を応援しておりますので」
私は感動しました。【おにぎりさん】という呼び名を、馬鹿にされることはありましたが、褒められたのは初めてでした。
一言でいって、嬉しい!
気分が良くなった私は、つい調子に乗ってしまったのです。
「私、正直いって迷いがあるんですが、このままスマホを替えてしまってよいのでしょうか?」
こんな相談すべきではありませんでした。だって店員さんは私のスマホ愛なんて知らないし、スマホを売る店員さんからすれば、困った質問ですから。
なのにこの店員さん、一味も二味も違いました!
「それはお辛いですね。ですが、僕はそのおにぎりちゃんは、もう十分疲れ果てていると思います。こんなにキズも思い出も詰まっていて、十分幸せだと思いますよ」
私は確信しました。そう、私は、おにぎりちゃんへの愛を受け止めた上で、新規スマホの購入を後押しして欲しかったのです。
このぽっちゃり店員さんは、みかけによらず、私の想いを即座に見抜き、私に適切なアドバイスをしてくれました。
私は信頼しました。この方なら、任せられる!
ーーそれが、過ちでした。
「ーー今3年以上使用されたお客様を対象に、機種買い替えキャンペーンを行っており、新規機種をご契約で、機種代が2割引となります」
「そうなんですか……。悪くないですねえ」
「お客様はどういったスマホをお探しですか?」
「最新機種です、かねえ?なるべく安くて丈夫な、丈夫で長持ちするやつがいいです!」
「なるほど、それでしたら、少々お待ちください」
数分の待ち時間、私はウキウキわくわくでした。
だって、新しいスマホに出会えるから!
あの店員さんなら、きっと素晴らしいスマホに出逢わせてくれる。私はそう確信してました……
「ーーお待たせしました。こちらが最新機種になります」
「これが最新機種ですか?」
私は、衝撃を受けました。
だって、そのスマホは……、スマホは……
「ーーこちらのスマホは、透明で目に見えません」
「え?」
店員さんは、まるでスマホを持っているかのように、手を添えていました。見た感じ、何も持っていないのに。
この情景、私には心当たりがありました。
そうです。あの物語です。かの有名な童話、裸の王様です。
服を着てないのに着てると思い込まされるという王様のお話です。
「ーーお客様、戸惑っておられますね。戸惑うお気持ちはごもっともです。このスマホは見えない。まるで裸の王様じゃないか?ということですよね」
「ええまさにその通りですが、どういうことですか?」
「わかりました、ご説明します。こちらのスマホは、「スマホの王様」と呼ばれておりまして、ご覧の通り、透明かつ柔軟な素材で出来ており、非常に軽量なのが最大の特徴になっております。省エネで非常に丈夫です」
そういって店員さんは私に透明なスマホを私に手渡しされました。
実際に持ってみると、感触さえなくて、空気みたいに軽かったです。タッチしようとしても、何も感じません。
とはいえ、心優しいぽっちゃり店員さんの言うことです。なにかウラがあるのだと思いました。
「えーと、ひとつ疑問なんですが、どうやって使うんですか?見えないし持ってる感覚もないですし」
「鋭いご質問です!このスマホは、まさに近未来的です。お客様が必要だと感じたとき、目の前にスクリーンが現れます。あとは、頭の中でイメージし、空中で操作できます。試してみますか?」
「そんなにすごいなら、ぜひやってみたいですが……」
「まずは僕がやってみるので、見ていてください」
そういうと、店員さんは目の前に手を出し、空中で左右に手を動かし始めました。
こちらからは、画面はおろか、スマホ全体が全く見えません。
でもたしかに、シュッ、ピコッ、ポンと音は聞こえました。
店員さんは言います。
「試しにカメラを撮ってみます」
店員さんが店の外の車をパシャっととりました。それから、お客様にはまだ画面も見えないと思うので、印刷するとおっしゃって、裏にいき、印刷されました。
確認すると、たしかに光加減も、車の配置も、先程撮ったもののようでした。
「すごい……。私もやってみていいですか?」
「はい、もちろんです!」
私は店員さんに指示を仰ぎながら、画面表示を頑張りました。
1.「Hey, Suri」と念じる。
2. 手を伸ばし、起動ボタンを押すイメージで空中をタッチ。
だそうですが、しかし一向にできません。
そんな不器用な私にも、店員さんはあくまでも優しかったです。
「少し慣れが必要ですね!すぐに使えるようになりますよ!」
優しいぽっちゃり店員に励まされながら、私は何度かトライしましたが、やはりうまくいきませんでした。
「わたしには、使いこなせないスマホなのかしら……」
すると店員さんは……
「ーーいやいや、透明なスマホなんて存在しないですよ!カメラとかも全部手品です。さて、本当のオススメ最新機種は現在品切れでして、こちらが本当のカタログです」
「ふざけんな!なんやねん!掌で転がしやがって!」
豪快に笑う目の前の店員は、スマホに詳しく、傲慢で図太くて、最高に他人の心を掴むのがうまかったです。
彼こそが、スマホの王様なのだと思いました。
ーースマホの王様ーー
ps. 後日、某口コミサイトでこの店舗に最悪の一つ星をつけてやりました。皆さんも「透明のスマホ」を語る店員さんには、お気をつけて。
面白かったので、カタログ記載の新規機種を購入しましたが。これからも堅実に生きます。
にんじん
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