第14話 サイコパス

 大黒の卒業した大学は北海道にあり、旅行前に

「大学時代によう世話になったコテージや」と言っていたことから、大黒は大学生のころより強姦の常習犯だったと推測できる。また、コテージのオーナーがすれ違い様に祥子に視線を向けていた事が蘇った。

黒い瞳が印象的だった。

あの目の意味はもしかすると

(この子が今回のターゲットか?)という意味だったのかもしれない。

実際に小さな声で

「この子やな」と中島に喋りかけた気がする、

その時、中島は人差し指で「シッ」という仕草をしていた。

一瞬のことだった。

 そういえば中島と行ったスナックのマスターも同じような目をしていたが、同一人物だろうか、

 また大黒は中島の酒癖の悪さを周知している。だから、わざと世話役に委ねたのだろう。

 中島は旅行中のバスの中はずっと一升瓶を抱え、四六時中呑んでいたが、のん兵衛ぶりが下品だったことを覚えている。その時の一升瓶は出発前に大黒が差し入れしてくれたものだと言っていたから、中島が犯行を躊躇しないように図ったのだろう。

 

 大黒は用意周到に祥子をスキーツアーに誘い出し、中島に強姦を強要し、その時の写真をサイコパス・サイキに渡して、その代償に標本呼ばわりされている、婦人科の写真を入手したに違いない、もしかすると大黒もサイキと同じく、サイコパスなのかもしれない。


 サイコパスについてネットで調べてみると多くの投稿者がいて、大黒に当てはまるような箇所が幾つも見受けられた。

 しかしネットの情報を鵜呑みにしてはならないと思い「サイコパス」について書かれてある書物を取り寄せて読んだ。

そしてネットの記述と比較してみて相違ないことが分かった。


 サイコパスの脳には特徴があるようだ。大脳辺縁系の中の扁桃系が人間の「快・不快・恐怖」といった情動を決める場所であるが、fMRI(核磁気共鳴機能が像法)で診たとき、サイコパスの脳は偏桃体の活動が低く、それにより性格は、恐怖がないことで罪を犯しても罰せられることまで考えが及ばない、恐怖がないために平気で危険なことをやってのける、他人に共鳴できない非情な人格とされている。

 また、「嘘つきの前頭全皮質の灰白質・白質」という所見も特徴の一つだそうで、眼窩前頭皮質と内側前頭全皮質の両方の機能が低下していると、反社会的行動の危険性が高まるそうだ。また、海馬と後帯状回の機能障害が認められると、攻撃的な行動のコントロールを失わせたり、サイコパス特有の無思慮、無責任さが生じてくると記されている。

 良い面で言えば、明るく社交的で、饒舌さにより人を魅了している。

 他には性に執着しているのも特徴であるらしい。

 そして猟奇的な殺人犯はサイコバスに多いと記されている。


 非情な人格ということで思い当たる節がいくつか思い起こされた。

大黒が店長をしている、ハメル薬局を訪れた時、大黒は妊娠中の祥子を観てこんなことを言っている、

「腹の子は旦那の子か?どこの誰かもわからんような、おっさんの子かも知れんぞ、生まれてきたらDNAでも調べた方がええで」


「なんてこと言うの、冗談にしては酷い事を言いますね」


「出産予定は何時や」と聞くから答えると


「ほー、それやったら旦那の子かも知れんな、良かったやんけ」

 

 これらの発言から、結婚前に中島に連れていかれたスナックでの光景が浮かぶ、ガラの悪いおっさんグループは大黒が差し向けたものだと確信できた。

I病院の理事長から契約解除された腹いせを祥子に向けたに違いない、また一つ思い出した。

 中島は逃避行するとき、一番恐ろしいのは

「大黒や、大黒には気を付けや」と忠告をしていた。

 

スナックでの場面をもう一度振り返ってみよう、


 今回は前回よりも鮮明に見えてきた、


「濃いウイスキーを作ったってや」と中島はマスターに言う、

「私は飲めませんよ」

「飲まんでもいいから」と小さな声で言い、ウイスキーを自分の方へ寄せ、


「ほらカギちゃんに飲めって、後ろで応援してるで」と言うので振り向くと、

中島の斜め後方の席に、いつの間にかガラの悪そうな4・5人の中年客が座っていて、その中の一人が中腰の姿勢でこぶしを掲げて

「飲ませ!」とマスターに合図を飛ばしている。


その様子を祥子が観ていることに気づいた別の客が、中腰の客を座らせている。


「薄めに作り直しましょうか」とマスターが言う、中島は小さな声で


「カギちゃん見ときや」と囁いてからマスターに


「薄めのつくったって、これだけしかないけど足りると思うで」と言いながら、

白い粉のはいった透明のビニールを渡す。


マスターは苦笑いしながら受け取っている。

「カギちゃん、喉かわくからあんまり食べんとき」と中島は言う、

おつまみは口がぱさぱさして喉が渇く、

ポテトチップスやカラムーチョやチョコレートだった。


「ウーロン茶が欲しい」と要求するが、なかなかもらえず、お酒が出された。

中島はそのグラスも自分の方に寄せて

「飲んだらあかんで」と言い、スツールの話に繋がっている。


 そうか、中島は最初から嵌めるつもりなどなかったのだ!!


本気で5年前の事を再現するつもりだったのなら、甘いイチゴミルク酎ハイを勧めるはずである、2・3口で頭痛がしたところで、睡眠薬入りのウーロン茶をたっぷり飲ませれば良かったのだ。


 喉が渇いていてウーロン茶が欲しいと思ったのに、注文を聞き入れてくれてくれず、下戸であるのにウイスキーしか貰えなかったのは、飲まないことが分かっているから持ってきた睡眠薬を使い切りたかったんだ。

 また予備の睡眠剤の粉も準備していたのは、人を疑わない祥子でも察知できるように、わざと目の前で渡すためだろう。

 そして中島は最初から逃避行するつもりだったのだろう、多分ちゃっかりと給料日の次の日に決行したのだろう。

 憎みたいが憎み切れないところがある、複雑な心境が胸をかき乱す。


コテージで眠らされている時

「大黒から借金をしていて、返済を迫られている」という言葉も聞こえていたことも思い出された。

中島の良心に僅かではあるが心が救われた気がした。

 しかし中島には良心があったのだと思い込もうとすると、それを否定するかのように、魔のスキーツアーが再現された。


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