第12話 パニック症状
2018年11月 乳がんの定期健診の日
待合室で祥子は脳科学の医師を紹介してもらいたいという一心で言葉を考えあぐねていた。「大丈夫、大丈夫、水瀬医師は優しくて穏やかな先生だから、ちゃんと話を聞いてもらえるはずだ、でも精神病と診断を受けてしまうと世間から妄想癖があると言われてしまいかねないから、ちゃんと話さなければいけない、冷静に、冷静に、練習、練習‥‥‥、先生、私は最近、過去の出来事が次々に見えるのです。それで、今なら婦人科で耳を塞ぐような検査なんて無い事も分かりますから、S病院で『耳を塞げ』と言われたのはシャッター音を消すためだったのだと気づきました。でも21歳の時は気づかなくて耳を塞いでいました。それで盗撮をされてカルテに貼られていました。そのことに気づいたことで、これまで感じていた周囲の意味深な発言の意味も分かってきて、職場のK病院内にまで流出していたことに気づきました。わたしは告発本を書きたいと思っているのですが、妄想ではないことを証明して下さるような、脳科学の先生をご紹介いただきたいのです」と、祥子は心の中で伝えたいことを明確に、話す練習を繰り返していた。そして自分の名前が呼ばれて診察室に入ると、
「前回の血液検査の結果も問題ありませんでしたよ。元気に過ごしていましたか」と温かい声で話し掛けて貰った、祥子は水瀬医師の声を聞いた途端に緊張が解け、全身が震え出した。そして祥子がしゃべり始めると、突如吃音になり、ひざがガクガクと振動し始めた、
「せ、せ、せんせい‥‥‥、9,9、9月ころから、か、か、過去が見えて‥‥‥」
「どうしたのですか、落ち着いて話してみましょう」
「わ、わ、わ、‥‥‥、こここ、告発本を書きたいから、ももも、妄想でで、ではないと、のの、の脳科学の医師に、しょ、しょ、証明してもらいたいのです‥‥‥」と、祥子は椅子を揺らしながら、なんとか言い切った。
「あのね、申し訳ないですが私は脳科学の医師を存じあげないので、先ずは精神科で診察を受けましょう、そちらの医師がご紹介くださるかも知れませんから、紹介状を書きますからね」
結局祥子は精神科受診を勧められ、ガックリと肩を落とした。
しかし、受診する覚悟が決まると、何故だかほっとしていた。精神が壊れないようにと力が入り過ぎていたのかもしれない、それに信頼を寄せている水瀬先生に少しでも聞いて貰えたことで安心できたのかもしれない。しかし安心すると、またしても嫌な出来事が一気に蘇ることとなり、それに伴って不眠も続いたので精神科受診日までは市販の睡眠薬でしのぐことにした。
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