第2話 ファイル1


 私が今回依頼を受けたのは、ビルマー アニマートと言う男である。二十三歳、男性、独身。後述、被害者フィーネとの関係は恋人だった。

 事件はメタリカ グラフ地方のディファー平原と言う、平凡で平和な田舎で起こった。

 メタリカ内有数の資産家ノイギーア家のお嬢様、フィーネ ノイギーアが行方不明になり、後に死体となって発見されたのである。


 アニマートはメタリカの地下水道、貧困層の中の貧困層と言う劣悪な環境で生まれた。あまりの酷い生まれであったが、ある日靴磨きの少年として街頭で仕事をしている時にノイギーア嬢と出会った。彼女は貧乏なビルマーに対しても親切に、そして気品を持って接した。その美しい姿にアニマートは一目惚れした。

 ビルマーは当時十八歳だったが、彼はその惨めな格好では到底彼女の姿にお目にかかるだけでもおこがましいと感じた。そこで彼は当時雇って貰っていた農場運営者に頼んで、借金をし、新たな農場を経営し始めたのであった。


 わずか一年後、農場での収穫あって借金を返済し、身なりも綺麗になった彼は遂にノイギーア嬢を探し始めた。幸いにしてノイギーア嬢はすぐに見つかった。ある日乗った列車で偶然にも彼女を見つけたのだ。

 彼の鼓動は跳ね上がり、思わず歓喜のあまり叫びそうになったそう。更には当時、彼は農業組合の会合からの帰りで、身なりも良い。またとない機会だった。

 彼は思い切って話しかけた。


「フィーネ ノイギーアさんですね?」

「ええ、そうですが」


 ノイギーア嬢の声は相変わらず抑え気味であったが、驚きは隠しきれていなかった。それもそのはず、見ず知らずの紳士に話しかけられたのだから。


「私はビルマー アニマート。一年前に靴磨きの際にお目にかかりました」

「そんなはずはありませんわ。貴方の格好は随分と高価。靴磨きの少年とは程遠いですもの」

「いいえ、私は貴女の靴を磨いたのですよ」

「そうですか……でも、その靴磨きとは思えない靴磨きさんがどうして私に用事があるでしょう?」


 彼女の美しい碧目に見つめられ、更に鼓動が高まる。


「貴女に一目惚れ……だったんですよ」


 ビルマーは顔が赤く火照ってきているのが分かった。自分でも良く言えたものだと。

 勿論箱入り娘のフィーネがその言葉に心を動かされないはずもなく、


「あ、あの……私……どう返事をしたら……」


と、普段は見せぬであろう紅潮を晒した。


 それから二人は地元のそこそこのレストランで食事をした。質素だが、ワインは良かった。その後、彼らは遂に付き合いだしたのだった。



 それから四年。ビルマーがフィーネに指輪を買った日だったが、フィーネが行方不明になった。鋼鉄警察は状況証拠から犯人はビルマーだと断定した。アリバイがなかったからである。また当時、事故等でフィーネが死んでいたら、ビルマーが資産を相続する事になっていたので、それが世論もビルマーの有罪に賛同した。

 裁判では『極めて計画的で残忍。人を欺く事にも何ら抵抗を示していない。よって死刑を求刑する』と言う事で判決が出た。

 勿論、私、オルガノンは控訴した。が、再審願いは棄却。証拠がないなら死刑決行は免れなくなった。


 ビルマーとフィーネの関係は比較的良好だった。ビルマーは普段農園営業を営んでいた。一方、フィーネは資産家の娘として、社交界の花。二人は真逆の立場ながら、釣り合っていたそうで、平原の人々はこれを羨んでいた。

 平日は二人とも忙しく、それでも休みがある日は必ず会っていた。それ程二人は愛し合っていた。

 それなのにおかしい!

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