ミエのスマホ

hitori

第1話 ミエのスマホ



 「あっ、LINEきた」


 孫のミエがスマホを覗いている。せっかく遊びにきても、スマホばかり気にしてる。きっと母親から逃げたいだけで、うちに来たのかなと思う。中学生はそういう時期なのだ。


 「じいちゃん、今日は泊まるから。お母さんにじいちゃんから電話してよ」

 「いいよ。夕飯、何が食べたい?一緒にスーパーに買い物にいくか?」


 ミエときたら、お菓子や菓子パン、カップ麺をカゴに入れ、アイスクリームやジュースまで。夕飯のおかずにお刺身やお惣菜コーナーで簡単なものを見つけた。


 「お菓子、多いな」

 「いいのいいの。母さん、お菓子は食べ過ぎると健康によくないって、あまり買ってくれないんだもん。おじいちゃんちに来た時くらい思いっきり食べたいよ」


 夕食はおじいちゃんにとっては、久しぶりに孫と食べる機会だから楽しみだった。食事の最中、話のあいまに何度もスマホを見るミエ。


 「ミエ、スマホが気になるのか。友だちからの連絡でもくるのか」

 「うん、そうだよ。いつもだと母さんがうるさいの。だから、さっさと食べて部屋に戻るんだ。今日はゆっくり食べられそう」


 隆二じいちゃんは、何か言ってあげたいけど、何を言ったらいいのかわからなかった。


 「食事はゆっくり落ち着いて食べたほうがうまいぞ。友だちは逃げたりしないだろ」

 「じいちゃんはスマホにしないの?まだガラケー?」

 「ガラケーで十分だ。出かけている時に、具合でも悪くなったらと思って持っているだけだから。ミヤコが持ってないとうるさいんだ」

 「じいちゃんも母さんのことうるさいって思ってるんだ」


 食事が終わって、ミエは隣の部屋でテレビを見ながら、スマホをいじっていた。


 次の日、日曜日の朝、おじいちゃんはミエを散歩に誘った。近くの公園に行き、ベンチに座って、おじいちゃんは言った。


 「ミエ、スマホのない生活を考えたことある?」

 「えええ!考えられないよ」

 「無くても生活できることはわかる?」

 「今の時代、スマホは必需品だよ」


 必需品か。ミエには今の便利な生活は普通なんだなと、隆二じいちゃんは感じた。


 「スマホはミエにとってどんなところが便利?」

 「友だちといつでも話ができるとこ。写真も送れるし、動画だってできるんだよ。便利でしょ。あと、わからないことをすぐに調べられるよ。道案内もしてくれる」


 便利すぎるな。簡単なんだよ、友だちとの関わりが簡単すぎる。


 「スマホで話するのと、直接会って話すのはどっちが楽しいと思う?」

 「おじいちゃんの言いたいことはわかってる。お母さんと一緒なんだね」

 「そういうことじゃないんだ。母さんと同じことを言うつもりなんてないよ。私が言いたいのは、スマホに頼りすぎていないかってこと。スマホに縛られてないかってことなんだ」

 

 ミエは黙って公園で遊ぶ小さな子どもを見た。


 「スマホは人が作った便利な道具だけど、使うのは人間。スマホにいろんなことで振り回されちゃ、スマホに使われているのが人間になるんじゃないか。ミエは本が好きだろ。映画を見るから原作本はいらないなんてことないだろ。それぞれに良さがある。スマホにはスマホにしかできない良さがあるけど、使わなきゃいけないってことでもない。自分の体でしか体験できないこともある。友だちと一緒に過ごす時間って、スマホだけじゃないんだよ」


 公園の砂場で子どもがお母さんと砂山を作っていた。


 「そうだね、スマホで砂山の写真は撮れるけど、一緒に作ったほうが楽しいね」

 「うん、そうだ。料理だって食べるより作るほうが楽しいぞ。今日は母さんのために夕飯を用意したら、母さん喜ぶぞ」


 その日の夕方、ミエの家でおじいちゃんとミエは夕飯を作りました。そこにお母さんの嬉しそうな顔が、ミエの楽しそうな顔がおじいちゃんを喜ばせました。



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