二人の秘密部屋/KAC20215作品「スマホ」

麻井奈諏

第1話

「でさ~」

クラスメイトの友達とは色んな話で盛り上がれる。スイーツやテストの話題、昨日のTVの話だって色んなことを共有できる。

誰だって友達と仲良くするのは楽しい。当たり前のことだ・

「……」

会話中にチラリと横目であるクラスメイト一人を見る。

誰ともつるまず、一人で黙々と読書をしている。どこか近寄りがたい雰囲気を醸し出し。誰も喋りに行こうとは思わないだろう。

(喋ってみると面白いんだけどなぁ……)

「え~、それでどうしたの~?」

だからといって学校で喋ったりすることはなかった。


―――


「今日も一日お疲れさまでしたっと」

学校が終わって家に帰り、お風呂も夕食も済ませ、ベッドへと寝転がる。


『今日も一日お疲れさまでした』


メッセ―ジSNSを起動しいつものように何気ない一言を送る。他のSNSなどを起動して動画を眺めて時間を潰せば数分後に返信が帰ってくる。


『お疲れさまでした』


そっけない一言がぺこりとお辞儀をしたスタンプと共に送られてくる。


『今日何読んでたの?』


そう質問をすると、


『源氏物語』


と言ってそっけないが帰ってくる。


「うげぇ、古典の授業の奴じゃん……」

舌を出して、思わず嫌な顔をしてしまう。


『面白い?』


『うーん、微妙。でも、登場人物達は凄く面白いよ』


「そうかなぁ……」

授業も話半分にしか聞いていないから良くは知らないけどちょっと読んでもいいかもしれない。


こんな淡々とした質問を繰り返す。このやり取りが始まったのはクラスが決まって一か月くらいのこと。クラスの中でSNSのグループ機能を使ったグループを使おうということになった。

当時からすでに近寄りがたかった彼女を誰が誘うかという話になった。

「あー、じゃあ私が誘う」

誰も手を挙げようとしなかったから(少し喋ってみたいという気持ちがあったし)私が誘うことにした。

「あのーちょっといい?」

本を読んで集中している彼女に軽く声を掛ける。時折、前にかかってきた横髪を耳に掛ける姿が凄く様になっている。

「……」

「あのー、もしもーし」

「ん?え?私?ごゴメン!!気が付かなかった」

「……ふははっ、そんなに慌てなくてもいいのに。えっと、クラスのグループ作るんだけど入らない?もちろん強制じゃないんだけど」

「あっ、そのSNSやったことないんだ」

「えっ、嘘、ホントに?」

今時の女子高生がそんなことあるのだろうか?

「うん。一応スマホは持ってるんだけど、電話にしか使ってなくて」

「えー、勿体ないよ。じゃあ、今入れようよ!」

「どうやって入れるの?」

素でキョトンとした顔をしていてる

「そこからか……」

「ご、ごめんね」

「ううん、よしじゃあ、スマホ貸して」

スマホを借りてSNSをダウンロードする。

「……よし、これでわたしのIDを……これで良し!」

「それでどうするの?」

「どうするって……メッセージ送ったり、タイムラインに面白いことがあったら共有したり」

「……毎日やるの?」

「いや、そんな義務的なものじゃなくて……あー、じゃあ夜にメッセージ私が送るね。気が向いたら返信してよ。それにわからないことがあったら教えるし。なんでも聞いて」

「うん、手が空いてたら返信するね」


―――


それから、こうやって毎日のように夜な夜なメッセージを送りあっている。

学校では全然喋ったりしないのにこうやってSNSの中だけで会話するっていうのは、なんだか少し他の誰もいない個室で内緒の関係を持っているみたいでちょっとだけ私はドキドキしていた。


『もう眠くなってきたね』


『そうだね。また、明日』

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