第156話 本当のことを伝えると死ぬ国
闇落ちした大魔法使いが国中に『本当のことを伝えると死ぬ』呪いをかけるというアイデアを思いついたのですが、書く気が起こらず、かと言って黙って捨てる気にもならなかったので、ここに書きます。
本当のことを文書でもおしゃべりでも伝えられなくなったら、教育は成り立ちません。学校教育はおろか、家庭教育も成り立たず、子どもは言語を習得できないでしょうし、親を信用できず、情操も育たないでしょう。
科学技術の進歩は止まり、正しく伝達できず、これも遠からず崩壊します。
コミュニケーションが成り立たなくなるので、人間のつながりが断たれ、組織は瓦解します。家庭は崩壊し、恋愛も成就せず、友人とのつきあいも色褪せてしまう。
人々は崩壊をまぬがれるため、嘘をつきながらその裏読みをして秩序を維持しようと試みるでしょうが、正しいことを伝えようとする嘘は、本当のことを伝える言語となり、やはり死を招くことになります。
かくして、『本当のことを伝えると死ぬ』国は滅びてしまいます。
その崩壊過程を書くことはできますが、救いがなく、創作意欲がまったく湧きません。
こうしてアイデアが没ったわけですが、わざわざ雑文にする気になったのは、『真実を伝えるのは本当に大切』だなと検討過程でつくづく思ったからです。
正しいことを伝えられないと、国家が滅ぶ。
嘘が有効なのは、嘘が例外的なケースである場合に限ります。
すべてのコミュニケーションが嘘になってしまったら、そこにあるのはカオスだけです。
政治家、教育者、公務員はもちろん、経営者、会社員など、あらゆる人が基本的には嘘をつかず、信用できることが大切で、そうでないと共同体も組織も成り立ちません。親と子の絆も育ちません。社会は劣化します。
『本当のことを伝えると死ぬ』国についての物語を書く気になれなかったのは、誰も成長できない、マイナス成長していき、いずれ滅びる、そんな過程を書くのは憂鬱でしかなかったからだと思います。
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