第154話 山口つばさ『ブルーピリオド』13巻感想

 山口つばさ先生の漫画『ブルーピリオド』13巻の感想を、なるべくネタバレ少なめに書きます。

 面白かったです。

 いつもアートとはなにか、と身構えながら読むのですが、そのことについても考えさせられたし、単純にお話もよかったです。


 さて、アートとはなにか、いろいろな解説本も読みましたが、いまだによくわかりません。

 現代アートって、日本の一般大衆には縁のないものなのかな、という想いが深まるばかりです。

 なんだこりゃ、意味わかんない、と感じることが多いです。

 奇矯な感を抱かせたり、度肝を抜かせたりするのがアートの使命なのだろうか、と思うこともあります。

 美術館には行きますが、現代アートを買いたいと思ったことはありませんし、買える価格でもありません。


 13巻では主人公矢口八虎がインスタレーションを創り、それがきびしめの教授に評価されます。

 インスタレーションの制作過程が興味深く、評価されることによりカタルシスが得られるのですが、ここでわたしの心の中で疑問が生じたのです。

 ちょっと待って……。

 

 東京藝大絵画科は、日本でもっとも絵が上手い学生たちが入学するところだと思います。

 予備校で死ぬほどデッサンをし、油画や日本画を練習した学生たちが入る。

 しかし、油画専攻では、多くの学生が油絵を描かなくなります。

 私は卒展を見て、奇矯なインスタレーションが数多く展示されているのを見て驚きました。

 これ、すごいのかもしれないけれど、絵を描く技術とは関係ないよね……。


 インスタレーションは巨大な展示物で、その多くが保存されることなく、展示期間が終わったら廃棄されます(確かそうだったと思います)。

 瀬戸内海の小島の名物アートになっているような一部の作品を除き、購入されることなく、置き場所もなく、解体されるのです。

 そんなもの(と言ったらアーティストに怒られるでしょうが)、に藝大生が血道を上げ、気が狂って退学し、就職もできない例が多い。それでいいのかな? とどうしても考えてしまうのです。


 インスタレーションなんかどうでもいいから大衆を喜ばせるアートを創ってくれ、ということになったら、藝大の存在価値はなくなり、日本のアートは終わるのでしょうか。

 

 ひとつネタバレ。

 脇役が「藝大はもう辞めた。留学するよ。だって日本のアートとか終わってるじゃん?」という台詞を吐きます。

 どうせ終わっているなら、大勢の退学者を出すような教育はやめて、多くの日本人を喜ばせるアーティストを養成したらいいんじゃない? と私は最近思うようになってきました。

 もしかしたらそれが日本アート起死回生の一打になったりしないのかな?


 純粋芸術のことはいまだに謎だらけです。

 芸術史を変えるような作品についてはわかりやすく解説している文章を見かけますが、その他の大量に制作されている現代アートの価値を納得させてくれる説明は読んだことがありません。

 絵画の天才・秀才たちが創ったものでも、評価されていない作品は無価値なのかな?

 評価された純粋アートを所有できるのは一部の富裕層だけであり、その価値は西欧・米国の尺度で換算されます(そういうものだと私は認識しています)。

 評価されない作品は速やかに消えていきます。


 私はアートを理解したいと思いつつ、ときどきちらりと見ては、やっぱりよくわからないとかぶりを振って、一生を終えそうです……。

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