第17話 バンド「若草物語」について 我々はいかにしてアルバムを作ったのか。そして「無能警察」へと改名 

バンド「若草物語」について、みらいつりびとから説明します。


メンバーは四人。高校のクラスメイトです。友人H、E、T、そして私。高校時代から、みんな音楽が好きでした。


Hは電子音楽や環境音楽や洋楽を私に教えてくれました。彼は優れたキーボード奏者であり、さまざまな音楽についての知識や技術を持っていました。頭の切れる男でした。


Eは日本のフォークやロックを聴かせてくれました。彼はギターベースを弾くことができました。そして、カリスマ性とリーダーシップを持った男でした。彼がいなければ、若草物語というバンドはなかった。


Tはものすごいオーディオセットでジャズやフュージョンを聴いていました。積極的に歌ったり演奏したりすることはなかったけれど、穏やかな性格で、いつも私たちと遊んでくれました。


私は映画音楽を好んで聴いていましたが、彼らから影響を受け、すごい勢いで別のジャンルの音楽を吸収していきました。


私が一番音楽を知らなかった。彼らと遊んで、聴く音楽が変わりました。あ、映画音楽は今でもすばらしいと思っていますよ、もちろん。


麻雀をしながら、モノポリーをしながら、そしてときには歌いながら、私は彼らのおすすめの音楽を聴きました。高校時代はまだバンド活動はしていなかった。しかしその下地はできつつありました。


転機は大学に入ってから起きました。私はとあるサークルに入り、ギターを弾き始めました。そして気持ちよいコード進行があることを知り、口笛でメロディを吹きました。歌詞をつければ、それはすなわち曲でした。


バンドやろうぜ、と誰が言ったのか、覚えていません。Eが最初の曲を作り、その歌をみんなで歌ったことが始まりだったのかな。いつの間にか四人でバンドを始めていました。ちゃんとしたバンドではありませんでした。オリジナルの曲を作って遊ぼうみたいなノリだった。


演奏技術はH以外は稚拙でした。最初のころ、パーカッションはティッシュの箱やコップでした。フォークギターとクラシックギター、おもちゃのピアノや自動伴奏機能のあるキーボードを使ったりしていた。


私は作詞作曲とボーカル兼ギターを担当しました。


Hは軽々とキーボードを演奏しました。後には、高度な編曲をしてくれました。彼には本当に感謝しています。高校時代、最初に友達になってくれて、彼の音楽観を変えてくれた。彼がいなかったら、私は映画音楽だけを聴き続けていたかもしれません。


Eは作詞作曲をし、ボーカルとギターとパーカッションをやりました。人間的魅力にあふれる男で、私たちは彼に引っ張られて行動していたような気がします。


Tはそんな私たちを暖かい目でいつも見守り、付き合ってくれました。ごく稀にコーラスをしてくれました。静かな人だった。私がふざけて無理に歌わせようとしたら、怒られました。穏やかなTを怒らせると、寿命が縮むと言われていました。私の寿命は縮んだかもしれません。


音楽で遊ぶことが楽しくて、いつの間にかバンドになっていました。ボーカル、ギター、ベース、キーボード、ドラムと揃ってはいなかったから、ちゃんとしたバンドではなかったけれど、私はバンドだと思っていました。


バンド名は「若草物語」。Eが適当につけました。後に「無能警察」と改名しますが、この名前は若気のいたりだと思います。警察に怒られてしまう。私たちは頭脳警察というプロのバンドが好きでした。だからつけた名前でした。


Eがバンドにコンセプトを与えました。大声で叫ぶように歌うこと。叫べ、と彼は言ったっけ? よく覚えていないけれど、彼の曲を歌うときは、叫ぶことを求められました。


「気分のいい唄」というのをEが作詞作曲しました。コードはGとEmだけでした。


「今日はとっても気分がいいのだ、今日はとっても気分がいいのだ、いいのだ、いいのだ、いいのだ、いいのだ」とEと私が掛け合いをしながら叫ぶ唄でした。


私たちは「歌」と「唄」をなんとなく使い分けていました。「歌」はきちんとAメロ、Bメロ、サビといった構成のあるもの。「唄」はひたすら叫ぶもの。なんとなくですが、そんな感じでした。


「わかんねー」という唄もEが作りました。


「わかんねー、おれにはなんにもわかんねえ、わかんねー、ついになんにもわかんなくなっちまった、すべてなるようになる、そんななぐさめなんにもならねえ」とEが歌い、私とHとTがバックコーラスでひたすら「わかんねー」と叫んでいる曲でした。


このようにして、Eはバンド若草物語の方向性を決めたのです。


私は世界史の教科書を見ながら、「世界史の歌」を作りました。


そして、学祭の日、大学のキャンパスに乗り込み、大声で歌いました。


受けませんでした。我々は落胆し、とぼとぼとギターやキーボードを持って、出店の前を歩いていました。


「お兄さんたち、音楽やってるの? なんか弾いてよ」と出店の人が言いました。


私たちは顔を見合わせました。「やるか」という雰囲気が生まれました。


「気分がいい唄」を歌いました。受けた。めっちゃ受けた。私たちは人だかりに囲まれていました。歌い終わると、Eが麦わら帽子を脱いで、地面に置きました。一円玉、十円玉、飴玉がそこに投げ入れられました。我々は報酬を得たのです。そのお金をどう使ったのか、記憶がありません。


その後、若草物語は「風雲録」「無能警察」というアルバムを作りました。たいていEの家で、一発録音でした。演奏はあまり上手くなかった。私のギターのチューニングはたいてい少し狂っていました。


演奏技術は低かったけれど、創作意欲はすごくありました。私は張り切って曲を作りまくりました。Eの家で作詞作曲合宿もやりました。明け方には頭がおかしくなっていて、「不健康」という曲をEが作りました。「最近、尿が甘い、たぶん糖尿病だろう」というひどい歌詞でした。我々はゲラゲラ笑い転げました。


私は「Caravan」という曲を作りました。C、Em、Am、F、Fmというコード進行でした。


「キャラバン、キャラバン、キャラバンで旅に出よう」と繰り返し歌います。そして「オアシスだー」と叫ぶと、残りの三人が加わって、「オアシスだー」「水を飲むぞー」「おれは宗教上の理由で酒は飲まない。羊を食うぞー」「おれは中国人だー」とか騒ぎまくるのです。


それが静まると、また「キャラバン、キャラバン、キャラバンで旅に出よう」と私が歌います。しだいに声を高めて、「砂嵐だー」と叫びます。「砂嵐だー。なにも見えない」「目がつぶれそうだ」「助けてー」「馬を見失うな、見失うなよ」「みんなどこだー」とか騒ぎます。


そしてそれも静まり、「キャラバン、キャラバン、キャラバンで旅に出よう」と私が始めます。次の変化は「山賊だー」です。「山賊だ。逃げろー」「追え、金を奪え、馬を奪え」「矢だー。助けてー」「痛い」「奪えー」「みんな逃げろ、死ぬなよー」誰がキャラバン隊で、誰が山賊だかわけがわかりません。アドリブです。そして私は歌います。「なにもかも取られたー、水もなーい、あるのはただ命だけ、蜃気楼が見える、いつ命を失うのだろう、ああ、仲間と会いたい、キャラバン、キャラバン、キャラバンで旅に出よう」そして自分で声を小さくしていって、フェイドアウトです。あの録音は楽しかった。


我々はゲリラライブと作詞作曲活動を続けました。


若草物語がバンド名を無能警察と変えた後、Hが所有していたP CやM T Rやシンセサイザーなどの機材を使って、きちんと打ち込みで編曲し、「縄文」というアルバムを作りました。


私は「縄文人の知恵に挑む」という歌を作りました。Hは「縄文人のクリスマス」というインストルメンタルを作りました。その他、音色豊かで多彩な曲ができました。


編曲はHの音楽センスがなければできないことでした。私には彼の技術が魔法に見えました。機材のことはさっぱりわかりませんでした。EはHにきちんと意見を言っていました。私は彼らの作業を見ていることしかできなかった。


編曲が終わってから、歌を録音しました。この作業には私の出番がありました。アルバム「縄文」はいい出来だったと思っています。惜しむらくはボーカルが弱かった。いいボーカリストがいれば、もっと高みに行けたかもしれないと今でも思います。


バンド活動はすごく楽しかった。充実していた。しかし、大学を卒業し、社会人になると、みんな忙しくなって、活動は自然消滅しました。


若草物語は輝いていた。少なくとも、私にとってはかけがいのない活動だった。

私はここにその活動記録を残したいと思っています。


いつか若草物語を再結成したいけれど、みんな、それぞれの人生に忙しい。たぶん無理だろうな。


若草物語は大切な思い出です。H、E、Tの幸せを心から祈っています。あなたたちがいなかったら、私は今とはちがう人間になっていた。


もしかしたら、思い出を美化しているかもしれない。記憶ちがいがある可能性もある。文責はすべてみらいつりびとにあります。H、E、Tからまちがいを指摘されたら、訂正します。黒歴史だから消せ、といわれたら、削除します。

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