第3話 飯能市山中の廃工場
西武秩父線吾野駅から歩いて鉱山施設の廃工場を見に行けるという情報をネットから得て、埼玉県飯能市にあるその廃墟に行くことにした。
この雑文集の第1話「白岩集落」で書いたとおり、僕は廃墟に惹かれる。廃墟好きは少数派であると思うが、確実に存在する。しかし廃墟は危険な場所である。第1話を書いたときはそのことをあまり認識しておらず、見物をおすすめするような書き方になってしまったが、今では考え方が変わっている。
危険を承知しているが、やむにやまれず見たい人だけが、自己責任で、なるべく危険を回避して見るものだ。
自己責任という言葉は、貧困を語る場合などには使いたくない言葉だが、釣りや登山など危険を伴う趣味をする場合は使っていい言葉だと思っている。ましては廃墟探訪などはなお、である。
3月中旬の風が冷たい日。ライトグリーンの屋根が特徴的な吾野駅の改札を出た。ここはすでに山麓である。
階段を下りて、北へ向かって歩く。すぐに法光寺があったので、お参りする。このお寺の西の山中には1346年に造営された埼玉県指定史跡「観音窟石龕」がある。そこも今日の目的地の一つである。
お参りから戻って歩いていくと、西武建材株式会社吾野鉱業所の建物があった。どっしりとした迫力と味わいがある。
さらに北へ行くが、目的の曲がり角がない。どうやら迷ったらしい。親切そうな方に道を尋ね、道を戻って、砂利道を歩いて、踏切を渡った。そこに「南無十一面観世菩薩」の赤い幟があった。岩殿観音はこの先だ。
「林道アズサズ線起点」との緑の標識がある。そこを登っていく。すぐにY字路に出た。右に行くと観音だが、廃工場は左にあるとの情報だ。
しばらく登ると、ネット情報にあった廃自動車があった。ネットに掲載されていた写真より劣化が進んでいる。フロントとリアのガラスがすべて砕け、車内に散らばっている。ダイヤは4輪ともパンクしている。座席は苔むしている。僕はこういうものに無常を感じて惹かれる。友人に「引くよ」と言われたことがある嗜好だ。うるさい、多様な価値観を認めろよ。
さらに少し行くとあった! 山中に異様な円柱形の金属の建造物が3つ並んでいた。目的の廃墟だ。高さは6メートルぐらいだろうか。円柱の上に3体の建造物を結ぶ鉄骨の屋上施設がある。これは錆びている。円柱の方は汚れ、苔むしているが、錆びてはいない。その材質が何か僕にはわからない。
円柱の裏に周り、急な斜面を登る。誰かの足跡があったが、登山をしない人は登らない方がいい。
登り切ったところに、円柱の屋上施設に渡れる細い金属橋があった。手摺りが半壊している。参考にしたネット記事を書いた人は自己責任で橋を渡ったようだが、僕はやめておいた。危険だ。ここまでだ。凄い廃墟を見ながら、おにぎりを食べて満足することにした。
円柱の中は空洞である。付近には石灰岩採掘場があり、それを貯蔵していたのかと推測する。廃工場ではなく、廃倉庫なのかもしれないが、真の用途はわからない。
円柱の上から落下したら死亡しそうだが、この廃墟には立入禁止の看板はない。こんな山中にある他の多くの廃墟も同様かもしれない。自己責任という言葉がここでは当然だと思える。見るだけでよし。おにぎりは美味しかったしね。
岩殿観音に向かった。登り道で少し疲れる。
途中に宝生の滝があり、岩壁が美しい。高さ18メートル。その横の小さな洞穴に爪書き不動尊という岩壁に彫られた仏像がある。弘法大師手彫りの不動尊と言われる磨崖仏との説明書きがある。興味がある方は来てみるといい。ただし、「頭上落石注意」との看板がある。リスクを負わないと楽しいことはできないのかもしれない。家で読書をしているだけでも、運動不足で不健康だしね。やれやれ。
さらに少し登って、武蔵野観音霊場第三十一番法光寺別当観音院懺悔室に到着した。この中が観音窟石龕だ。お参りした。
さて、帰るか。
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