スマホ没収

鳥柄ささみ

スマホ没収

「全くあんたって子は!! 早く寝なさいって言ったでしょ!? 今何時だと思ってるの! もう深夜の1時よ!?? いっつも朝起きてこないくせに、こんな時間まで起きてるだなんて……。罰としてスマホ没収します!」

「えーーーーーーー!!! やだやだー! 無理無理、それだけはやだーーー!!!」

「お黙り!! 言っても言っても聞かないんだから、もうダメです!! さっさと寝なさい! 明日も起こさないからね!!!」


 手元のスマホを母に奪われ、私が抗議するひまもなくバタンと部屋の扉を勢いよく閉められる。

 私は母を追いかけようとしたが、「今その扉を開けて出てくるようなら、今週はずっとスマホ返さないからね!」と追撃されて、あえなく撃沈。

 渋々私はベッドへと戻るのだった。


「はぁ、最悪。信じらんない」


 スマホなしでどうやって寝るのよ、と突然手持ち無沙汰になってしまって、寝るにも寝れない。

 いつも寝る前にSNSを見たり、二次創作投稿サイトを見たりして萌えを補給しながら寝るのが日課だったのにスマホを奪われた今、その日課は叶わなかった。


「あーマジくそ。てか、やば、アラームもセットできないじゃん。あーもーくそくそくそ。目覚まし時計あったっけなぁ……?」


 かれこれずっとお役御免であった据え置きの目覚まし時計を探し出す。

 久しく使ってなかったせいか、あちらこちら探したら机の下で埃を被ってるのを見つけて「そろそろ掃除しよ」なんて考えながらアラームセットして改めて布団に潜り込んだ。

 もう時間は1時25分。

 学校へは電車とバスを乗り継いで行かねばならないので、遅くても6時半には起きなくてはならない。

 メイクもするなら6時起きだ。


「ヤバ、早く寝ないとマジで遅刻する」


 私は部屋を真っ暗にすると、スマホ没収でイライラした気持ちを落ち着かせつつ、ギュッと目を閉じながら睡魔がやってくるのを待つのだった。



 ◇



「おはよー。何、ハナ、寝不足〜?」

「うっさい」

「しかも今日どすっぴんじゃん、ウケるー!」

「あーもー、朝起きれなかったのよ!」


 案の定、私は朝起きれなくて目覚ましは止めてしまい、スヌーズ機能がないアナログ目覚ましだったためギリギリまで二度寝してしまい、また母に叱られながら起きるという失態をおかしてしまったのだ。

 そのため、着替えと洗顔だけ済ませて朝食になるはずだった菓子パンと弁当を鞄に突っ込み、化粧なんてする暇もなく、そのままダッシュで先程遅刻ギリギリセーフの登校を果たしたのだった。

 おかげで髪も顔もぼろぼろ。

 さらにメイクセットも家に置き忘れるという失態で、最悪な1日のスタートだった。


「そんなんだったら遅刻してでも化粧してくればいいのに〜」

「それは、ママも怒るし、遅刻はやっぱマズいっていうか……」

「ハナってそういうとこ地味に真面目だよね〜」


 友人に指摘されて口籠もる。

 実際なんとなく遅刻やズル休みはしちゃいけないとなんとなく気持ちの根底にあって、そこはどうしても譲れない部分だったので彼女の指摘もあながち間違いではないのだが、それを認めるのはなんだか癪で肯定したくなかったのだ。


「そういえば、朝SNS見た? 既読つかなかったから気になってたんだけど」

「親にスマホ没収された」

「うっそ、マジ?」

「マジマジ」

「うわー、どんまい。ハナのママ厳しいって言ってたもんね」

「うん、ついにぶちギレられた」

「うへぇ、てかスマホなしとか生活できないわー。死ぬー」


 正直、私もスマホない生活とか死ぬ、無理、と昨日は思っていたけど、今のところ案外どうにかなっている。

 もちろん朝アラームがなかったのはつらかったけど、それ以外は定期もあるし、財布もあるし、普段スマホをぼんやり見つめていた時間に外の景色や周りの様子など見てると同じ電車内にイケメンがいたり、外に虹がかかってるのが見えたり、新装開店のオシャレなチェーン店ができてるのを見つけたりと思わぬ発見などもあったりした。

 考えてみれば、私は基本登校時はスマホ見てるばっかりで、周りのことをよく見てなかった気がする。

 まぁ、周りを見渡してもほとんどの人がスマホに夢中だったから、私もそれに紛れてただけだろうけど。

 こうして考えてみるといかに自分がスマホに囚われていた生活を送っていたかがわかる。

 ……あ、ちょっと私、今いい感じのこと思った?


「ま、どうにかなるでしょ」

「本当? あ、そういえば、1限目国語から数学に変わったらしいよ」


 友人の言葉に一気に青ざめる。

 まさに血の気が引くとはこのことだった。


「うそ」

「ウソじゃないよ。それ、朝連絡したんだけど。ほら、これ」


 言われて見せられたスマホの画面には「連絡:今日の時間割について」という出だしから、今日の時間割が変更され、急遽1限目が国語から数学に変更になったことが書かれていた。


「うっわ、見てない! その連絡も知らない!! 何でそんな連絡SNSで流してんの!」

「先生が学級委員にSNSで流しとけって言ってたらしいよ〜」

「くっそ、そんなんアリかよ! あーもー、ちょっと友達から数学借りてくる!」

「いってらー!」


 ……やっぱりスマホないと不便だわ、そう実感した私だった。

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