嘘だと言ってよ、母さん……。

維 黎

第1話

 母親がスマホを購入したので維黎ゆいれいは電話帳登録と各種設定をするため契約書、マニュアル、本体の箱が入った紙袋を持って二階の自室へ。

 新品のスマホにすることといえば、まず最初は液晶の保護フィルムを貼ることだろう。

 維黎は、自分のスマホで母親と同じ機種の保護フィルムの張り方の動画を探して張り方を確認する。

 二度ほど繰り返し見て、いざ本番。


 床に胡坐あぐらをかいて座り、目の前に母親のスマホを置く。

 スマホのショップで購入した専用フィルムを袋から出してカーペットの床に置く。同梱されていたクリーニングクロスとホコリ取り用のシールも並べて置く。

 まずはクリーニングクロスで液晶画面を軽く拭き、続けてシールを使って静電気が呼び寄せたホコリを取り除く。

 動画の内容を思い出し、保護フィルムについているラミネートを半分ほど剥がしてすばやく液晶画面へ貼り付ける。


 左の人差し指を横にして、保護フィルムを抑えながら下方向へと画面を擦るように移動させる。

 同時に右手でラミネートを下方向へと剥がしていく。

 人差し指がスマホの下端までいくと、ラミネートもぺろりと保護フィルムから離れた。

 うまくいった――かに見えたが、若干の気泡とそして最悪なことに一筋のホコリが。


「――くっそ」


 悔しさから維黎の口から悪態の一言が漏れる。

 しかし、幸いなことにホコリは保護フィルムの角付近に一つだけ。

 維黎はミニドライバーセットから一番細いマイナスドライバーを取り出して、保護フィルムを少しだけめくってフィルムについたホコリを、マイナスドライバーでひっかくように取り除いて貼り直す。


「よしッ!」


 ホコリを取り除き、きれいに貼り直せた喜びに思わず声を上げる維黎。

 次に財布から24時間営業スーパーのポイントカードを取り出す。

 保護フィルムの貼られた液晶画面に斜めにポイントカードを当てると、弱過ぎず強過ぎずの力加減で、ゆっくりと気泡を保護フィルムの外へと押し出していく。

 同様に三つほどあった気泡も全て取り除く。

 最後にスマホを手に取り、目の高さまで持ち上げると、手首ごとスマホを動かして他に気泡やホコリがないことを確かめた。


「――完璧」


 その後、電話帳登録と各種設定を行って、維黎は母親がいる階下の台所へと向かった。

 広くはないが、いわゆるリビングダイニングのリビングのソファーに座って、せんべいをポリポリとかじりながらテレビを見ていた母親にスマホを渡す。余談だが、維黎の母親は歴史モノの韓流ドラマにハマっているらしい。


「ほら、出来たで」

「――ありがもー」


 せんべいがまだ口の中に残っていたらしく、おかしな語尾でお礼の言葉を口にする母親。

 そして、スマホを受け取ってしばらくして――


「――ビニールついてるやないの」


 そう言うやいなや、親指の爪を保護フィルムの角に当ててめくると、一気に剥がしてしまった。

 普段は万事不器用な母親なのに、こんなときに限って苦労して貼り付けた保護フィルムを一発で剥がしてしまう。


「嘘やろ、おかんッ!!」



                    ――了――

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