酢酸イオン物語

キザなRye

全編

酢酸イオンちゃんは水素イオンくんを好いている。

水素イオンくんを見つけるとすぐに飛び付きたくなってしまう。


普段から水素イオンくんと離れたくないという意思が強くて他の人が水に入って自由行動をし始めても離れるのを渋ってしまう。

炭酸イオンちゃんとかフェノールちゃんに比べたら水素イオンくんを自由にしてあげているが、それでも水素イオンくんに執着しているのは間違いない事実だ。

例え水素イオンくんと離れたとしても暫くしたら“やっぱり君がいなくちゃ”と再び水素イオンくんに抱きついて離れなくなってしまう。

そして飽きるとまた水素イオンくんを自由にしてあげる。

そんなことが水の中で行われている。


ある時、水素イオンくんが酢酸イオンちゃんよりも可愛くて魅力的な水酸化物イオンちゃんに奪われちゃって貴重な人材ではあるけど酢酸イオンちゃんのタイプにはならないナトリウムイオンくんと無理やりくっ付けられてしまった。

酢酸イオンちゃんとナトリウムイオンくんは水の中にいる間だけはそれぞれが完全に自由行動をすることにして世間体では仲が良いふりをした。

それでも酢酸イオンちゃんはやっぱり水素イオンくんが恋しくて人目見たら飛び付いてやるとまで思っていた。


水は水素イオンくんと水酸化物イオンちゃんが仲良く抱き付きあっていることで構成している。

それでも稀に自由行動を取りたくなってしまう。

一旦自由行動を取ろう、と水素イオンくんが水酸化物イオンちゃんから手を離した隙に酢酸イオンちゃんは水素イオンくんに飛び付いて離れたくなくなる。

その影響で水素イオンくんよりも水酸化物イオンちゃんの数が多くなるので水酸化物イオンちゃんにしかできないことが行われてしまうのである。


また別の時、酢酸イオンちゃんはナトリウムイオンくんとくっついているように神の思し召しを受けて嫌だと思いながらも仕方なく神の指示に従っていた。

水の中に放り込まれているので自由行動はできるから酢酸イオンちゃんは不自由とまでは言わないけれども水素イオンくんのことを想っていた。


そこに水の中へ塩酸が投入された。

塩酸は水素イオンくんと塩化物イオンちゃんからできていて水に入るとすぐに自由行動を始める。

酢酸イオンちゃんからすると水素イオンくんを捕まえる絶好の機会だ。

水素イオンくんは自由行動をしていて誰か他の人に抱きつかれるのを邪魔されることはない。

酢酸イオンちゃんは抱きつくことに関して周りの目など気にしない。

水素イオンくんがいれば何はともあれ抱き付きたくなるのだ。


酢酸イオンちゃんの全員が全員、水素イオンくんに飛び付くわけではない。

自由行動まだしてたいとか暫くしたら行くからとか思っている酢酸イオンちゃんもいるので大半は飛び付くけど全員ではないことは承知しておかなくてはならない。


ただ、酢酸イオンちゃんよりも水素イオンくんへの執着心が強い人もいる。

ある種では水素イオンくんに依存していると言っても差し当りはない。

そういう人たちは幾ら酢酸イオンちゃんが水素イオンくんに飛び付きたくても酢酸イオンちゃんの飛び付くスピードよりも早いペースで水素イオンくんに飛び付いてしまう。水素イオンくんが別れてフリーになったのをくっついている当初から狙っているかのように。


逆に酢酸イオンちゃんとは逆に水酸化物イオンちゃんを狙っているような人たちも存在する。

例えばアンモニウムイオンくんである。

彼は酢酸イオンちゃんが水素イオンくんを狙っていたのと同じように水酸化物イオンちゃんを狙っている。


どちらにせよ、水素イオンくんはかっこよくて水酸化物イオンちゃんは可愛くて人気なので色んな人から狙われていて彼らへの執着心が強く、依存している人が奪っていくのだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

酢酸イオン物語 キザなRye @yosukew1616

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ