ギャルが家に来た

「そっちで寝てくれ」


「イヤ」


「追い出すぞ」


「イヤ」


 ワンルームの1人暮らしとはいえ、人が4人くらいぎゅうぎゅうだが寝るスペ

ースは充分にある。


 が、こいつはなぜオレのベッドに入ってくるんだ。


 鬱陶しくてそろそろイライラしてきた。


「マジで泊まらせてやってるんだから大人しくしていてくれ」


「ねぇ、何かしたいんだけど」


「何がしたいんだよ。もう夜23時だぞ」


 あれから家に入って、それぞれお風呂に入り、ご飯は昨日の夜に作っていたカ

レーを2人で食べた。


 なぜ、急にべったりくっついてくるようになったのか。


 オレは布団の中に潜ってこないように掛け布団を丸めて背中を向ける。


「あ」


 美雨からは男子にとって鼻腔をくすぐるような甘い、そしてギャルらしい匂い

がするが、別にそんなのどうでもいい。


 オレの家にこの匂いが染みなければ。


「構えよ、この野郎」


「口悪いな、ギャル」


 掛け布団を引っぺがしながら口調の悪いギャルがオレの家にいる。これじゃあ

全く眠れない。明日も朝練があるというのに。やっぱりこいつを泊めるべきじゃ

なかった。


「はぁ……」


 思わずため息が出てしまった。自然とそのため息に、ギャルもやりすぎたと思ってほしかったが、どうやら怒らせてしまったらしい。やはりギャルを家に入れ

るんじゃなかった。


「なによ、もう。つまんない」


 ギャルなのにかまってちゃんとというのはギャップがあって良いと言う人もい

るかもしれないが、かまちょは基本、気分屋のオレにとってガチでウザいと思っ

てしまう時がある。


 今がそうだ。ガチでウザい。


 と、そこでギャルが静かになった。拗ねてしまったか。


 オレはそのままなら寝れると思って、この機会を逃すまいと目を閉じ、息を整

える。


 しかし、それを邪魔するかのように美雨が口を開いた。


「あたしこれからどうしたらいいんだろう」


 オレは閉じていた目を片方だけ開ける。


 そして、オレの返事を求めていないのか、淡々と語り出す。


「お金も渡しちゃったし……帰る家もない」


 もちろん、貰ったお金は返していない。返して追い出そうか少し悩んでいる

が。


「友達も、もう頼れない。この家にずっといるためにこうやってかまってアピー


ルするのは普通でしょ」


 オレは片方だけ開けていた目を、今気づけば両方開けていた。


 美雨はこのオレに助けを求めていた。そして今、助けた。


 この家にずっといるためにかまちょをするというのは滑稽だが、こいつなりに

考えていた行動らしい。それもこの家にずっといるために。


「何でもするから……本当に……」


 お願い、お願い、と心の中で言っているような感じだ。


「何なら体も売るし、家事も全部やる。バイトをしてご飯代も何とかするし、や

って欲しい事言ってくれれば絶対断らない……。だからっ」


 そこでオレは、初めてこいつの話にまともな返事を返すことにした。


 まあまともではないのかもしれないが。


「分かったから、いいから寝ろ」


 少しの沈黙が流れ、返事が返ってくる。


「うん……」

 すると、すぐに隣からすぅ──すぅ──と寝息が聞こえてきた。


 今日もこいつはチンピラに追いかけられ、オレに追いかけられ、このオレに家

に入り浸るためにずっとかまちょをしてきていた。


 疲れているのだろう。


 なのでオレは、丸めていた掛け布団を解き、美雨の上に被せるようにして掛け

た。


 結局、一緒のベッドに寝ることになってしまったが、ぐっすり眠れるだろう。


 そうしてオレは、深い眠りについた。


 布団の中で、オレの腰に抱きつくようにする美雨を忘れない。



***


「おき……おきな……」


 いつもなら聞こえることにない声が聞こえ、意識を夢から現実へと戻す。


「起きないの?」


 そうして目を開け、意識が戻ると、まるで寝顔を見るかのように上から覗く込

むようにしていた美雨みうがいた。


「ああ……今何時だ?」


「7時よ」


「えっ⁉︎」


 驚きのあまり、思いっきり起き上がってしまう。


 そのため──


「痛ったぁ‼︎」


 美雨のオデコに頭突きをしたように直撃してしまった。悲鳴にも聞こえる美雨の声に、オレは寝起きの状態から目を覚ました。


「痛ってぇ……」



「何で頭突きしてくんのよ〜」


 うぅぅと涙目になりながらオデコを抑えている。寝起きで気分が悪いとはい

え、これに関してはオレが完全に悪い。


「ごめん」


「い、いいけど。うぅ」


 一応謝ってはみたが、かなり痛そうにしている。まあ、もの凄い勢いで起き上

がったから痛いだろう。


 オレはオデコを抑えている美雨を置いて洗面所に向かった。


「いや、そんな暇してる時間ねぇじゃん!」


 忘れていた。明らかにオレは遅刻している。今から家を出れば間に合う距離に

は住んでいるが、いつものように準備をしていれば間に合わない。


 オレはとりあえず顔を洗い意識を更に覚醒させる。そして更に、覚醒させたか

らか、危機感を覚えてきて、急いで準備をした。


 朝飯抜き、水筒作らない、制服は持っていって運動着で学校に向かうことにす

る。


 どうせバレないだろう。

 そうして10分で準備を終えたオレは、玄関に向かっていつものように家を出

た。


「え、あたしは!」


 家を出る時に、中からそう聞こえてきたが、オレは急いでいたので無視した。


 そうしてオレは何とか間に合い、朝練に参加したのだが、あまりにもシュート

が入らなく、今日1日、朝からイライラしそうだなと思った。


 授業中寝る時に美雨を置いて家を出てきたことを、ふと気づいて焦ったオレだ

った。


***

 

「今日居残り練しないのか?」


 放課後の練習終わり、いつもなら居残って自主練をしているオレに違和感を覚えた同級生がそう声をかけてきた。


「今日は用事があってな」


「ほぉ?」


「何だよ、その目」


「別に、何か焦っているような目をしていたから」


 そんな目をしていたのか、オレは。


「まっ、じゃあな」


「おう」


 そう言ってオレは体育館を後にし、家に走って向かった。


 自分の家に最近関わった奴、それもギャルを1人で置いていると考えると、全

身がソワソワした気持ちになる。 


 幼稚園、小学生、中学生の頃に卒アルや、黒歴史に刻まれるような物がアチコチ

にあるかもしれない。


「てか、あいつまだ家にいるのか?」


 そんな疑問が湧いてきた。


 オレが泊まりは今日までとしつこく言っていたから出て行っている可能性もあ

る。


 オレの考えが変わったとも知らずに出て行っていたりしたいよな。


 そんな事を考えながら走っていると、家に到着した。鍵が開いていも、いなく

ても、美雨がいるかどうかは分からない。


 鍵の場所を知らないアイツは鍵を開けたまま出て行ったのかもしれないから

だ。


 そうしてオレはガチャッという音と共に家の中に入った。


 そして──


「いないのか……」


 美雨の姿はなかった。


 綺麗に畳まれている布団に、昨日の夜に食べたお皿が洗ってある。


 洗濯機の中に入っていたワイシャツや服は外に干されていて、埃1つ見当たらな

いこのワンルームの部屋からは掃除機を掛けたのだと分かる。


「はぁ……どこいんだよ」


 どうせアイツには帰る家がないんだ。


 昨日の夜だってあんなに必死だったのに……もう諦めるのかよ。オレにかまっ

てちゃんアピールしろよ。


「クソッ」


 オレは思わず横の壁をグーで叩きつけてしまった。


 後からクレームが来るだろうか。そんな考えもせずに、オレはリュックを荷物

を置き、そのまま家から飛び出た。


「どこだ……」


 超絶気分屋のオレは、考えがすぐ変わる。靴下の色や、バスケのバッシュの履く

種類、毎日のように変わる。


 今日はこの気分だからこれでいこうとなるように、泊まらせないと絶対に決め

ていたが、結局オレは泊まらせることにした。


 絶対に1日しか泊めないと決めていたオレは、今では一週間くらいは様子を見

ようと思っている。


 やはり昨日の夜の美雨の言葉が大きかった。


 あの雰囲気、あの美雨の状況、あの口調や震えた声、そこから言葉にした“何で

もするから”という言葉はオレの中でも気分が変わるのに大きい要素だった。


 そうしてオレは、自転車がないので、オッサンたちが良くいるような場所や、チンピラ共が良く溜まっている場所などを徹底的に探した。


 体を売ってでも居続けようとしていたから、そういう奴らに体を売っているの

ではないかと想像したのだ。


 しかし──向に美雨の影も姿も、オレの目には映らなかった。


「補導の時間か……」


 時間を見れば、既に23時を回っている。


 電話しても充電切れって出るし、今何をしているんだアイツは……。


 オレはそんな心配をしながらも、家の方に向かって足を向けることにした。


 とりあえず『連絡くれ』とだけ送っておいたので、気づいたら連絡を寄越して

くれるだろう。


 もしかしたら、もう入り浸る家を見つけたのかもしれないが。


 そうしてオレは家に着くと、重い足取りで古びた階段を登り、家の前まで来

る。、階段の途中から段々と良い匂いがするなと思いながらも、オレは家のドア

の目の前まで来た。


 そしてオレは鍵のかかっていないドアを開けると──


「あ──! 帰ってきた! ヤンキーだ、ヤンキー! こんな時間まで!」

 

 そんな元気な、そして鼻腔をくすぐる美味しそうな食事の匂いが、聴覚、臭覚を刺激した。


————————————————————————————————————

 

SS(ショートストーリー)


 あたしは1人、裕也の家に置いてかれていた。


 起きてオデコがぶつかったと思ったら、急いで準備をし始めて出て行ってしまったのだ。


「なんてことだ」

 

 あたしは出ていく最後、大きな声で叫んだけど、そのまま戻ってくるような足音は1ミリも聞こえずに、1人置き去りにされた。


「ふむ、どうすればいい」

 

 結局、あたしは家事でもしようと思い、家事全般は終わらすことに。


「ふむ、終わったけど何をしよう」


 粗方、洗い物や、洗濯、掃除機などはし終わったので、することがなくなってしまった。


「ふむ、ふむ、ふむ────」 

 

 そうして悩んでいること数分、あたしは何か面白い物ないかなと思っていろんなところを漁り始めた。


「お、いいのあるじゃん」

 

 あたしは卒業アルバムを片手にそう呟く。

 

 そして卒業アルバムを見ていたのだが、驚くことに、コンドームが挟まっていた。男子であるイタズラか何かかと思いながらも、あたしはコンドームを自分のポケットに入れた。


「ふむ、これはこれは……良い買い物ができた」

 

 それからのもの、服を漁ったり、ベッドにどすっと突っ込んで匂いを嗅ぎまくったりしていたらもう外は暗くなっていた。

 

「そうだ買い物をして夜ご飯を作ろう!」

 

 あたしは自分の中であまりにも良い事を思いついたと思ったので、置いてあったお金を盗み、鍵を開けたまま家を出た。



 買い物から帰ってきても裕也は帰って来ず、補導の時間から少し過ぎた頃くらいにドアの音がなった時、流石にびっくりした。

 

 裕也はヤンキーかもしれない。


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