ギャルを追いかける
オレの毎日は、自主練をするために、朝早くの6時30分に起きる。
それから30分で支度をして家を出発するのだが、それよりも、あのギャル起きるのが早いな。
送信された時間を、既読を付けずに見てみると、朝の6時に『おはよ』と送られている。
「良く分からんな」
あいつは学校に行っているのすら良く分からない。
あのオッサンたちに犯されそうになっている時は、制服を着ていたが、どうに
も着こせていない感じがした。
「まあ、どうでもいいか」
てか、なんで連絡先交換したんだろうと、今更疑問に思いながらも朝練の準備をすることにした。
そうして準備が終わったオレは、あのギャルの朝の挨拶の返信をすることなく、学校に足を向ける。
オレの家から学校は歩いていける距離だ。オレだけ引っ越して1人暮らしをしているので、どうせなら歩いていける距離に住もうということになった。
オレはバスケ推薦でこの学校に来たようなものだから、元の家は1つ隣の県とまでかなり遠い。
しかし、親は引っ越さないで通えと言っていたが、オレがある条件を出したことで、父さんが承諾した。
お母さんは最後まで否定意見だったけど、結果今の通り引っ越して学校に通うことになっている。
マジで引っ越して良かったと思う。
朝早くから起きなくていいし、忘れ物もすぐに取りに帰れる。最強である。
そうして家を出てから数分。すぐに学校に到着した。
すでに体育館の中からはボールを床に叩きつけるバスケットボールの音がする。
朝早くから来て自主練をしている奴らだろう。努力家がここには多くてオレもやる気になれる。
そして中に入ると、自主練をしている人が10人くらいいた。
やはり体育館に入りと気分が上がる。気分屋のオレにとってはとても貴重な時間だ。
「おはようございます!」
「あ、おはようございまーす」
「おはようごまいます〜」
後輩たちがぞろぞろとオレに挨拶してきた。可愛い後輩たちだ。まだレギュラーには成れていないが、強豪校だけあって普通に上手い。
1対1の相手をこの自主練の間にすることが良くある。
「おう、おはよう」
そうして──自主練をして、朝練をし、学校の授業で隠れて寝てから、放課後の練習を終えた。
「わり、オレ今日寄ってくところあるわ」
いつもは途中まで帰りが一緒の友達と一緒に帰るのだが、用事があるのでオレはそう言って別方向に歩き出す。
「おけ」
友達も軽く流して帰路についていった。
さて──あいつはどこいった。
バスケをしていて視野が広いからか、特徴的な金髪の髪色が目立っていたから
か分からないが、今、正門の影から金髪の髪色が完全に見えた。絶対にあのギャ
ルがここに来ている。どうせ今、オレの視線に気づいて逃げている頃だろう。
が、今のオレは気分が良い。放課後の練習では良いプレーをし、顧問の人から
もたくさん褒められた。
ここは追ってみるとしよう。
そうして、走ってあのギャルを追っていくこと数分、到頭近くまで来た。疲れているな、あいつ。
ギャルの野郎もオレが追っていることに気づいているのか、腕を一生懸命振り
ながら後ろを振り帰っては、やばいっといった顔をしてまた大きく腕を振っている。
遊んでいるようで少し楽しい。
しかし──ギャルの野郎がオレのことを振り返った瞬間、チンピラ共が横から
現れ──ぶつかってしまった。
「
オレはそこで足を止める。
おいおい、またこのパターンかよ。オレがまた助けなきゃいけないパターンか?
今回はオッサンじゃなくて柄も悪そうなヤツばっかだ。
「あっ、すいませんー」
バカだ。
ギャルの野郎どうせ通りすがりの一般人だと思って、見向きもせずに軽く謝っ
ている。
「待てこらぁ!」
チンピラたちはギャルを追っていった。
「えっえぇ⁉︎」
ギャルの野郎もそれにびっくりだ。オレから逃げる時よりも早くなって逃げて
いる。
でもそのうち追いつかれるだろう。
オレも追いかけることにした。どうせ助けないといけないしな。
そうしてオレは、チンピラどもを追い抜き、ギャルの元まで追いついた。
ふんっ、タバコばっか吸ってっから体力ねぇんだよ。
そして、オレはギャルの手首を掴んだ。
「うわっ!」
マジかよ。咄嗟にオレの手を振り払ったぞ。まあチンピラたちに腕を掴まれた
と思ったのだろう。仕方ないか。
「オレだよ、オレ」
そう言うと、一生懸命走っていたその険しそうな顔から、安堵の表情が窺え
た。
「あ、ああ。前の……」
「こっちだ」
とりあえずあいつらを撒くことにしよう。オレは狭い道へと入り、チンピラ共
の視界から消えた。
そうして逃げていくと、走ってくる足音は消え、どうやら撒けたようだ。
「もう大丈夫だぞ」
「はぁ……はぁ……疲れたわ」
ありがとうの一言も言えないほど息が切れている。
「オレの水筒で良かったらあるけどいるか?」
部活のために入れていたスポドリが半分くらい残っている。
すると、ギャルということもあるのかよく分からないが、間接キスを気にせず
に口をつけてごくごくと飲んでいった。
そして、ギャルは落ち着いてきたので、とりあえず言いたいことを言うことに
した。
「なんでオレの学校に来てるんだよ」
「やっぱりバレてたのね……」
当たり前だろ。
「暇だったからよ」
「暇?」
「そう、暇だったの」
「学校行ってないのか?」
「あ、うん……。行ってないわ」
予想は当たっていたらしい。今着ている制服も中学の頃のやつとかか?
「その制服はどうした」
「これは、あれよ。高校の」
「意味分からん。もっと説明してくれ」
「うぅ……。だから……高校辞めたのよ」
そんなに追求してこないでといった顔をしているが、思わず口が走っていく。
「何で辞めたんだ?」
「……。お金がないのよ」
学費が払えないということか。それで高校を辞めるのもどうかと思ってしまう
が、人それぞれ事情があるのだろう。
「そうか。お前名前は?」
オレはそこで、聞いても意味がないことを切り出す。これから付き合いがある訳
でもないというのに。
「
美雨、か。
「とりあえずあいつらももういないだろうし帰るぞ、美雨」
「みっ。そ、そうね」
そうしてオレたちは2人で歩き出した。
やばいな。少しお腹が空いてきた。気分が悪い。部活の後はおにぎりしか食べ
ていない。
空腹がオレを襲っている。
そして、オレが早く帰りてーと心の中で思っている時だった。
後ろでポツリと美雨が呟いた。
「まあ──あたし帰るとこないけど」
***
「どういうことだよ」
「だから、あたし今日で帰るところ無くなった」
あまりにも自然と言ってくる。帰る家が無いとか問題すぎるぞ。
理由を聞く他なかった。
「なんで無いんだよ」
「お金がないんだもん。しょうがないでしょ」
今日でと言っていたから、昨日までは住む家はあったということだろう。
あまり美雨の家庭事情が分からないオレは、とりあえず自分の家の方向に足を
向けながら質問を繰り返していた。
「じゃあ今日どうするんだ?」
「んー、どうしよ」
考えていないのか。もう時刻は20時を上回っている。もうすぐ21時になる
といった頃だ。もちろん空は暗黒に包まれている。
「友達の家にでも泊まっていけよ」
学校を辞めたといっても、中学の頃の友達、高校の友達が少しはいるはず。
まあ帰る家がない人を泊らせない人はいないと思うが、優しい友達だったら匿
ってくれるだろう。
その望みにオレは賭けたが──
「もう友達の家は行けないわ」
絶望に変わった。
美雨が言うには、1年生の頃から半年間ずっと匿ってくれていたらしい。
その後からは学校を辞め、バイトをし、1人暮らしをしていたと言う。
親の家に帰らないのかと思ったが、どうやら親には頼れない理由があるらし
い。ギャルらしいトラブルでもあったのかと自分の中では解釈しておいた。
そして1人暮らしをするお金が無くなった今、今日から帰る家が無くなったと
いう訳だ。
と、そこで、美雨が少し遠慮気味でオレに向かって口を開いた。
「……あんたの家に泊まるのはダメ?」
「ダメだ」
即答する。
「ダメか……」
さっき帰る家がない人を匿わない人はいないだろうと言ったが、ここにいた。
今は人を家に泊らせるような気分ではない。部活のこともあるし、生活習慣を
壊したくないのは事実だ。
ギャルを家に入れるメリットがオレにはなかった。
前にいたオッサンたちならメリットがあるかもしれない。体で弄ぶなど。
「ああ。だから──着いてくるな」
「あたし家ないのよ? 何でもするから」
友達でもなければ、親友でもない。そんな相手に何でもすると言うのはあまり
にも滑稽だ。
オッサン野郎に何でもするから泊らせてと言っているのを想像すると、肌がブ
ルブルと寒気がした。
ギャルみたいな見た目だからといって、襲われる可能性もなくはない。
「何でもするって……どうせ家事とかできないだろ」
1人暮らしをしているオレにとって、一番時間をとられるのは家事だ。
料理に洗い物、洗濯に片付け。全て自分でやっている。
そんな家事を1人のギャルができるとは思えない。オレは、諦めろと遠回しに
言った。
「できるし」
バカにしないでと目で訴えかけてくる。
美雨の目を間近で見るのは初めてだが、やはり綺麗だ。遠目から見ても、くり
んとした目は整っていて、それに近くで見ると、長いまつ毛や、整えられた眉毛、
輝いている金色の髪がハッキリとオレの目に焼き付く。
「……できるわけないだろ」
「偏見! できるからっ!」
ギャルって家事とか自己管理ができないもんだと思っていたが、こいつは違う
らしい。信じられないが。
「でもダメだ。オレはそういう気分じゃない」
しかし、泊らせる気はさらさらオレにはない。
やはり異性と泊まるとなると、ゆっくり眠れないし、自由にできない。
それに今日泊まるといっても、こいつは明日からどうせ1人だ。泊まる家を探
しにでも行くのだろうが、巻き込まれたくない。
「イヤ」
「は?」
「イヤっ」
「は?」
「イヤだ」
「……」
「泊まらせて!」
そして──
「ハイ! これ全財産!」
これで泊まらせてと言っているその片手には、3000円と小銭が少し乗っか
っていた。
そのお金や手のひら、そして表情からは助けを求めているようにしか見えなか
った。
小銭がじゃりじゃりと音をたてているのが分かる。美雨は震えているのだ。
ギャルらしい強気な顔をオレに見せているが、やはりその瞳の奥には助けを求
めていて、手を握って欲しそうな顔をしていた。
だから──オレはこいつの全財産をむしり取るようにして美雨の手をぎゅっと
握った。
「今日だけな。──ここがオレの家だ」
そうしていつの間には着いていたオレの家に手を繋ぎながら足を進めた。
オレが歩き出した時、どすっと重くなったが、美雨は驚きで足が最初動かなか
ったのだろう。
オレは後からペースを緩めることなく、引っ張るように歩いた。
家の鍵を開けて、家の中に足を踏み入れた時、美雨がオレの手をぎゅっと力強
く握り締めるのを感じとった。
でも──これは今日だけだ。
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SS(ショートストーリー)
あたしの手を握ってくれた裕也。 ←連絡先の名前がフルネームなので分かる
こんなストーカーみたいなあたしをキモいと思っているのかもしれないけど、決して顔に出さないそのイケメンな顔には惚れちゃう。
未成年なのにお酒を飲んで酔っ払っていたあたしにハプニングが起きて、それを助けてくれた。
犯されていた時に、昨日まで寝ていた家も無くなり、お金も尽きていたあたしは体に力が抜けていたけど、そこに──ヒーローが来た!
どうにでもなれと思っていたあたしは最初、襲われていない事に気づくのに少し時間がかかったが、すぐに目の前にいるイケメンさんに救われたのに気づいた。
そんなイケメンが今は家に!
まああたしが押し入ったようなものだけどっ。
「……カッコいい……イケメンすぎ……」
手を握られてそんな事をボソボソ裕也には聞こえない声で呟いていたが、気づいてないなこのイケメンは。
あ、そういえば──
裕也の財布を拾って中身を確認して学生証が出てきた時、学生証に載っている顔写真をあたしの目に焼き付けていたら1時間経っていたな。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
コメント、レビュー等よろしくお願いします‼︎😊
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