スマホとかも大切にした方がいいなって思う話

富升針清

第1話

 近年、スマホと言うものは随分と先の先へと進化を遂げてしまった。

 スマホでの電子信号による人体への干渉を成功させたA・サワモト氏を始め、あのフォーミラーカー開発に尽力を注ぎ、AIへの発展に一躍買ったT・ナルイ氏などの先人達のお陰で、今や日常何処か生きて行く上では手放せなくなってしまたスマホと言うものは、過去の人間達が思い描いたロボットと言うものに近くなってしまったのかもしれない。

 スマホが元々スマートフォンの略称だったと知っている人類は今少ないだろう。

 名称だけが時代に残ってしまった良い例だと私は思う。

 今や、全ての電子機器には当たり前のようにAIが搭載され、日夜学習を深め、推論、判断を人間の様に磨いている。最早、その機能については人間と遜色がないと言っても過言ではないのだ。

 スマホの生産も、スマホを使ったAIが生産を管理し、スマホを繋いだ生産ロボット達が工場を二十四時間動かしている。

 最早、そこに人を介す必要はない。

 アップデートや新しい機能、モデルでさえAI達が学習機能を駆使し、推論、判断をし制作している。

 そのAIの監視、管理すら、人を必要としない管理体制なのだ。

 それは何もスマホの生産だけの話ではない。

 今や、スマホはどんな機械にも接続可能。

 どんな工業ロボット、農業ロボットでもスマホと同期しスマホに入っているAIが動かしてくれるている。勿論、工業、農業だけではない。数々の産業、サービス、医療、果ては政治まで。勿論、日本はまだ政治の部分に諸外国よりもAIの導入が遅れている事は度々指摘されているが、私は近いうちに導入しざる得ないと思っている。何、遠い未来の話ではない。今朝のニュースを読みながら、私のAIも言っているのだから。

 そうなれば勿論、人の働く必要は皆無と言っていいかもしれない。

 多少は残っているものもあるが、大抵が娯楽、道楽。

 だが、全てが残っているわけではない。

 後継者不足に悩む伝統芸能の大半は既にスマホの機能……、昔で言うアプリとして引き継いでいる。

 労働と言うものは過去の話だ。人件費もなく、生産コストもない。AI達が全て自分達で賄っている。こうなってくると、生産や人口が安定すれば、金を払う必要も稼ぐ必要もない。最早、この時代に金と言う無意味な価値など必要ないのだ。

 人は、スマホを持って思い思いに生きている。

 何処に行こうが、何をしようが、自由。

 スマホを持っている限り、何をしていてもいい。リスク回避や生存管理はスマホで管理はされているのだから。

 昔の言葉でストレスと言う奴隷制度の名残りの様なものは、遠い昔に無くなってしまった。

 だから、私達は今、自由に生きている。

 スマホを繋いだサービスロボットにコーヒーを出してもらいながら、世界中を旅している私の様に。


「スマホ壊れたかも」


 コーヒーを飲みながら小鳥の囀りを楽しんでいると、この国の少女達の会話が聞こえてくる。

 勿論、言語などこの時代にはあってない様なものだ。

 スマホを介したイヤホンに翻訳した言葉が流れてくる。昔はわざわざ他国の言語を覚える為に勉強をする人間がいたと言うが、理解に苦しむよ。

 スマホを進化させる事に尽力を注げば、もっと早く解決出来たことなのに。と、ね。


「早く投げ捨てちゃいなよ」

「これで今月に入って二台目。運がないのかも」

「次は良いスマホが来るわ。大丈夫」


 そう言えば、スマホの不調の話は最近多くなっていると聞く。

 スマホが不調でも、文句を言う必要は何処にもない。

 スマホを投げ捨てて壊せば、すぐ様近くのサービスロボットがスマホが壊れた事を感知し新しいスマホを届けてくれるからだ。

 件の少女はスマホを力一杯地面に叩きつけると、スマホはバラバラになって地面に散らばって行く。

 世界中にあり触れた風景だ。

 私がコーヒーのカップをテーブルに置く前に、すぐ様少女の元にサービスロボットが駆けつけて、新しいスマホを彼女に渡していた。

 速やかに散らばったスマホを内蔵している回収機で回収すると、サービスロボットは足速に去っていった。


「一秒でもスマホがないと本当不安」

「もう少し早くきて欲しいわね」

「でも、ママが子供の時は一分も待たされたみたい」

「信じられない。よく、皆んな耐える事が出来たわね」


 懐かしい話に、思わず笑いが込み上げてくる。

 きっと、お嬢さん達には私が子供時代に一時間も掛かっていたなんて知ったら、驚きの余り生態信号に異常が出てスマホが病院に通知をしてしまうだろう。

 コーヒーを飲み切ると、スマホがコーヒーを出すサービスロボットに信号を送り尽かさずカップを回収してくれる。

 良き時代になったものだ。

 これも全て、先人達の築いた努力の元に今の私達が築き上げた理想郷の一つの形なのだろう。


「さて、次は何処に行こうかな?」


 そう言って私が立ち上がると、私の足が持つれて倒れてしまった。

 いや、恥ずかしい。よく何もない所で足が絡れたりしてしまうのは昔からだ。


『大丈夫ですか?』


 スマホから声がする。私が倒れた事により、自動起動したのだろう。


「ああ。足が絡れてしまってね。こればかりは、君でもどうする事も出来ないだろ?」


 私が笑うと、スマホがまた声を出す。


『良い解決方法を私達は学習しております』

「え? 本当かい?」


 なんと、スマホの進化は目覚ましいんだ。


「是非教えてくれ」

『はい。貴方を地面に投げ捨てて壊せば、すぐ様回収して新しい貴方を用意できる事を私達は知っています』


 スマホの進化は目覚ましい。

 先の先へと進化を遂げる。




『次は良い貴方がくる事でしょう』

 


おわり

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