双子の祈祷師降魔録

前編

乾いた着信音が木霊（こだま）した。

全身に衝撃が走る。

「もしもし……」

震える手でスマホを耳に運ぶ。

「もしもし……」

スピーカーの向こうから喘ぐような呼吸音が聴こえる。

「もしもし……」

「……た……す……」

「きゃあぁぁぁっ！」

唐突に聴こえた男の声に、女は絶叫しスマホを投げ出した。

「……た……すけ……て」

「ごめんなさい……ごめんなさい……」

何度も謝りながら、女はその場に蹲（うずくま）った。

啜り泣く女の足元で、なおスマホは語り続けた。

アパートの一室にいる面々は異様だった。

青白く生気のない顔をした若い女性。

その向かいには子どもが二人並んでいる。

小学五、六年といったところか。

どちらも赤白の巫女装束（みこしょうぞく）を着ている。

髪の長さ以外は全く同じ容姿で、一目で双子と分かる。

名前を竜宮寺風（りゅうぐうじふう）、竜宮寺雷（りゅうぐうじらい）という。

降魔調伏（こうまちょうぶく）を生業（なりわい）とする祈祷師である。

「スマホから声が聴こえ出したのはいつからですか」

姉の風が子どもとは思えぬ落ち着いた口調で尋ねる。

「四日前から……」

女性が消え入りそうな声で答える。

名前は音無睦美（おとなし　むつみ）。

今回の件の依頼者だ。

この数日間、不審な電話に悩まされている。

出ると必ず男の声が自分の名前を呼ぶという。

それだけなら悪戯電話で済む話だが問題はその先だ。

いくら消音設定にしても着信音が鳴り響く。

どこに置こうと、どこに捨てようと、いつの間にか手元に戻ってきている。

通話を録音し警察にも相談したが、電話に出なければ諦めるだろと助言されただけだ。

切羽詰まった末、知り合いのツテから双子への依頼となった。

「それで相手に心当たりは？」

風の問いに睦美の表情が一気に曇る。

「あるんですね」

小刻みに体を震わせながら頷く。

「和哉……私の……弟です」

絞り出すような声が漏れた。

音無和哉（おとなし　かずや）は一か月前に他界していた。

ベランダからの転落事故だった。

両親は早くに他界しており、姉弟は同じマンションに暮らしている。

弟を失った悲しみはいまだに癒えてはいない。

「録音した不審通話を聴かせていただけますか。それと何か弟さんの声が分かるものがあればそれもお願いします」

睦美はぎこちなく頷くと、ポケットから赤いスマホを取り出した。

ボタン操作し声が再生される。

「たす……けて……」

途切れがちの声が何度も繰り返された。

再び操作すると今度は動画映像が流れた。

睦美と和哉らしき人物が自撮りでふざけ合っていた。

体格のいい青年だ。

映像が終わり暫しの沈黙が流れた。

「確かに同じ声ですね」

雷に目を向けると首を振って同意した。

「こんな事が……現実にあるのでしょうか」

「まだ何とも言えません」

「一体どうすれば……」

不安に慄（おのの）く睦美を見て風は声を和（やわら）らげた。

「とにかく電話がかかってくるのを待ちましょう」