第164話 漢字恐怖
漢字恐怖症の人間を拷問する文書の作成が私の仕事。本業務の要諦は勿論可能な限り平仮名と片仮名を排除する事。
不思議な事に漢字恐怖症は中国人には皆無。日本人に特有の症状。其れに関する論考は私の仕事では無い。漢字恐怖の治療も専門外。私は漢字恐怖症者専門の拷問吏で有って、学者でも医者でも無い。
拷問文はより画数の多い漢字を用いるのが望ましい。然し乍ら意味も無く懺悔憂鬱顰蹙等と書き連ねるのは無意味。漢字恐怖症者の目が滑るだけ。彼等の殆どは活字中毒。監獄内で書籍を与えず、中毒症状を呈した状態で拷問文書を付与。彼等は落涙し乍ら読む。悲嘆に暮れ乍らも読了せずには居られない。
当文書は極めて面白味に乏しく、読み難い。然し此れ以外に読み物が無い状況では漢字恐怖症者に読まない選択肢は無い。其れが活字中毒を併発している彼等の特徴。度を越した活字中毒で活字強迫神経症。漢字恐怖か活字中毒か、何れが重篤な症状なのか私には判断不能。何方がより問題なのか解らない。繰り返すが私は学者でも医者でも無い。私の仕事は漢字恐怖の喚起で有って、其れ以外では無い。
私は漢字を多用せざるを得ない職業に就いているが、漢字が好きな訳では無い。寧ろ逆で職業病として漢字恐怖症に罹患するのを恐れている。漢字恐怖症者専門の拷問吏が漢字恐怖症に罹るのは珍しい事では無い。拷問者から被拷問者への転落。此れは我々にとって有り触れた末路。
私は活字中毒者である自覚がある。漢字恐怖症に罹り易い資質。
何故漢字恐怖症者は拷問されねばならないのか。そんな事は知らない。私は学者でも医者でも為政者でも法律家でもない。規則だから、職業だから、私はより漢字の多い拷問文を作成しなければならない。最近私が不調で漢字含有率が下がっているのは、漢字恐怖症に罹患しかかっているからかも知れない。
漢字恐怖症者は活字を読まずには居られない。同時に漢字に恐怖して泣き喚く。亜亜亜亜亜亜亜。
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