第137話 呵呵大笑史

 呵呵大笑かかたいしょうが似合う将軍がいた。

 会戦に勝利し、ワハハハと大笑いした。

 ワ将軍は何度も勝利し、呵呵大笑したが、天下分け目で1敗し、首と胴が離れた。

 そのとき呵呵大笑したのは、敵の将軍だった。

 ガハハハと笑った。

 ガ将軍は皇帝になり、ガ王朝を起こした。争いがなくなってから、皇帝は呵呵大笑しなくなった。平時に呵呵大笑は似合わない。

 6代皇帝のとき反乱が起こり、賊将が正規軍を倒して呵呵大笑した。ダハハハと笑った。それは久しぶりの呵呵大笑だった。何度かの大勝利と呵呵大笑を経て、賊将は新たな王朝を起こして皇帝になった。

 それがダ国である。

 皇帝はやはり大笑いしなくなった。皇后がときどきオホホホと小笑いするだけだった。

 ダ国の平和は長くはつづかなかった。

 北方の遊牧民族に侵略され、国土の北半分を奪われ、南ダ国となった。

 やがて遊牧民の長は南ダ国も滅ぼし、ウハハハと呵呵大笑した。

 ウ国を樹立し、皇帝となった。

 皇帝の息子たちは世界征服の遠征をし、世界中で呵呵大笑したが、同族で争うようになり、ウ国は衰退した。

 農耕民族による遊牧民を北へ追い返す運動が巻き起こり、指導者は戦いに勝って呵呵大笑した。その笑い声はアハハハと聞こえた。

 ア国の勃興である。

 ア国は長くつづいたが、近代になって、船と阿片で侵略する西方帝国の植民地となった。

 独立運動を起こし、西方帝国を脅かしてカラカラと呵呵大笑する将軍が出現したが、独立には至らず、カ将軍は志半ばにして国外へ脱出した。

 以後、呵呵大将軍は現れていない。

 王朝はもはや生まれず、世界大戦争の後、近代的な民主国家が生まれた。

 それがこの国の歴史だ。

 現代において、戦争で活躍するのは人間ではなく、無人機である。

 そこには呵呵大笑はない。

 機械は笑わず、後方でそれを監視している人間も笑わない。

 呵呵大笑の時代が牧歌的であったという考えは誤っている。戦争は古代も現代も悲惨である。

 呵呵大笑を人間的だと感じる人もいよう。

 そう感じるのは自由である。

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