第132話 熱男
僕の体温はついに8000度を超えてしまった。そのかわり、地球温暖化は止まっている。僕たちが熱を一手に引き受けて吸収しているおかげだ。
僕は遺伝子操作によって生まれた膜状耐熱人間で、空を飛んで膜を広げ、太陽熱を吸収している。地球温暖化を阻止するついでに、その熱エネルギーで生きている。
僕たちは
僕に残された時間はあとわずかなのかもしれない。1万度まで耐えられるか、それとも9000度で果ててしまうのか。
今日も僕は膜を広げ、太陽熱を吸収している。耐熱人間とはいえ、暑くて苦しい。なんでこんな体に生まれ、熱を吸収しつづける使命を帯びてしまったのかと考え込むこともあるが、悩んでいても仕方がない。僕たちが働かないと、地上の人たちは滅びてしまうのだ。運命を受け入れるしかない。
「暑いね」と僕の隣で飛んでいる個体が言った。
「暑いねえ。きみの体温はいま何度?」
「9700度だよ」
「よくがんばってるね。すごいよ」
「うん。僕、人類に貢献しているよね」
「ああ、えらいよ」
「よかった……」
それが彼の最後の台詞だった。直後に爆発して、彼の体は粉々に砕けた。
「本当によくがんばったね。お疲れさま……」と僕はつぶやいた。
熱男の活躍により、地球温暖化はストップした。地上の人たちは化石燃料の燃焼停止や再生可能エネルギーへの移行努力をやめ、経済活動を謳歌している。
僕はたまに疑問に思う。僕たちの苦しみを忘れて、ガソリン自動車を爆走させ、エアコンをガンガンに使っているのは、ちょっとちがうんじゃないの?
できれば少しくらいは自分たちも痛みを感じる努力をしてほしい。熱男をこれ以上増やすのはやめてくれないかな。
僕の隣にいた死んだ個体のかわりに、新人が地上から飛んできた。
「よろしく、先輩」と彼は言った。
「がんばってね、後輩」と僕は答えた。僕たちに個人名はない。熱吸収をして、短命で死ぬ熱男に名前は必要ないと考えられている。
「きみの体温は何度?」
「300度です」
「若いねえ」
「先輩は何度ですか?」
「いま8200度くらいだね」
「高いですね」
「高いよ。もうすぐお役目を終えると思う」
後輩が膜を大きく広げた。
「僕、新型の熱男なんです。膜は従来型の1.2倍で、15000度まで耐えられます」
「そうか。すごいね」と僕は答えた。
彼は長く生きられるのだろうが、その分長くつらい仕事に耐えなければならない。それがしあわせなのかどうか、僕にはわからない。僕はいまでは暑くて苦しすぎて、早く役目を終えて楽になりたいと思っている。
太陽はギラギラと輝いている。
僕の体温はじりじりと上がりつづける。
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