第103話 人面樹の森
あたしは人面樹の森に立っている。
ここはお墓だ。
あたしの村では遺体を埋葬すると、そこに樹が生えてくる。さまざまな樹だ。ブナやナラやマツやヒノキやスギ。動植物の楽園のような豊かな森が何百年もかけてできあがっている。
その樹の幹には人の顔が浮かびあがっている。
生前、もっともしあわせだった時期の顔。多くが笑っている。
森はしだいに広がっている。人が死んだ数だけお墓をつくるのだから、当然のことだ。
しかし、疫病の流行で森は急拡大した。
バタバタと村人が死んでいき、生き残った人たちは嘆き悲しみながらお葬式をし、埋葬した。
あたしも毎日穴を掘った。
知らない人も知っている人も埋めた。
親しい人、大切な人も埋めた。
父を埋め、母を埋め、兄を埋め、妹を埋めた。
恋人が近くにいて、いつもあたしと一緒に穴を掘ってくれた。
その彼をいま埋め終えた。
「なんでなんだよ……」
新緑の輝かしい森。鳥はやかましいほど鳴き、鹿の群れが草を食べている。
「なんであたしなんだ……?」
あたしは村の最後の生き残りだ。
あたしを埋めてくれる人はいない。冥福を祈ってくれる人はいない。
この疫病を拡散することはできないから、村の外に出ることもできない。
「疲れたよ……」
丈夫だったあたしもついに疫病にかかってしまった。皮膚から血が染み出している。
恋人の樹が成長したら、彼の笑顔をまた見ることができる。
でもその顔を見ることはできそうにない。
あたしは自分の墓を掘りはじめた。
この森の一部になることがあたしの最後の願いだ。
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