第99話 眉毛の家出

 ある朝僕は鏡を見て驚いた。

 眉毛が家出していたのである。正確には顔出と言うべきか。

 眉毛がどこにも見当たらない。剃ったわけではない。どこかへ消えてしまったのだ。

 困ったが、会社へ行かなければならない。

 課長に怒られた。

「おまえ、眉毛を剃ったのか? 我が社の社員らしく、きちんとした格好をしろ!」

「いや、これは剃ったのではなく、眉毛がどこかへ家出してしまったんです……」

「下手な冗談はやめろ!」

 女性社員がクスクスと笑っていた。

 次の日僕は鏡を見てまた驚いた。

 眉毛が口髭の部分に帰ってきていたのだ。

 困ったが、会社へ行かなければならない。

 課長に怒られた。

「おまえ、眉毛を剃るばかりでなく、髭なんて生やしたのか? 我が社の社員として、きちんとした格好をしろと言ったはずだ!」

「いや、この髭は眉毛なんです……」

「おまえ、私を馬鹿にしているのか?」

 女性社員がまたクスクスと笑った。

 その次の日僕は鏡を見て安心した。

 眉毛が元の位置に帰っていたのだ。

 僕はほっとして会社へ行った。

 課長の眉毛がなくなっていて驚いた。

「課長、眉毛を剃ったんですか? 我が社の管理職として、よいのでしょうか?」

「いや、これは剃ったんじゃないんだ……」

 わかっていますよ。家出されてしまったんでしょう?

 僕は女性社員と共にクスクスと笑った。

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