第42話 野良猫と話す

「人間は怖いけれど、あなたは別みたい」と猫が言った。

 ローカル線の駅前にその野良猫は棲んでいる。

 僕は鰹節を混ぜたおにぎりをちぎって、足元に置いた。

「怖くないよ。食べて」と僕は言った。

 小学生のときに読んだ児童文学の主人公みたいに、僕は動物と話すことができる。

 どうしてそんなことができるのかわからない。

 にゃあにゃあ、と猫が鳴きながら近寄ってくる。

「ありがとう」と言っているのだ。

「おいしい、おいしい」

 おにぎりを食べながら、四本の足首から先だけが白い黒猫が言った。喜んでいる。

 にゃおにゃおにゃあ、と僕は言う。

「きみの名前はソックスちゃんで決まりだな」

「ソックスちゃん?」

「靴下のことだよ。きみは足だけが白くて、靴下をはいているみたいだから」

「ソックスちゃん。わたしはソックスちゃん」

「かわいい名前だろう?」

「うん。気に入ったわ」

 僕はおにぎりを全部ソックスちゃんにあげた。

「おいしい、おいしい、おいしい」

 僕以外の人間には、にゃあにゃあにゃあ、と鳴いているとしかわからないと思う。でも僕には鳴き声の意味がわかる。もしかしたらテレパシーのような能力を持っていて、動物と意思の疎通ができているのかもしれないが、よくわからない。

 とにかく、僕は動物の言葉がわかる特殊能力の持ち主なんだ。

 このことはお父さんとお母さんにも伝えていない。ふつうではない能力だとわかっているから。

 僕は今高校一年生だ。

 小学二年生のときにこの能力に気づいて、他の人にはない力だってこともなんとなくわかった。

 親友にだけ打ち明けたけれど、信じてもらえなかったし、そのとき僕を気味悪そうに見た。なんだこいつ、という感じ。そのとき僕はこの能力を秘密にしようと誓った。

 実はこの能力、年を取るにつれて、だんだんと低下してきている。

 小学生のときは動物園にいるすべての動物の言葉がわかったんだけど、今は犬とか猫とかの身近にいる動物としか話せなくなっている。

 大人になったらなくなってしまう能力なんじゃないかと思っている。

「ごちそうさま。ありがとう」とソックスちゃんは言った。

「また明日」と僕は言った。

 今はまだ野良猫と話せる。

 僕は動物が大好きだけど、アパートに住んでいてペットを飼うことができない。

 明日、ソックスちゃんと話すのが楽しみだ。

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