第17話 秋の流行~一つ目の美顔手術

 ある年、秋が近づいたころ、渋谷の街に奇妙なファッションをした女性が現れた。彼女は真っ赤なレザーの服を着て、堂々とスクランブル交差点を歩いていた。彼女は一つ目だった。二つのまぶたは糸で縫合され、額に真新しい目があった。その瞳はまっすぐ前を向いていた。

 彼女は女性アイドルグループの一員で、ファッションリーダーの一人と見られていた。渋谷を闊歩する彼女の映像はテレビで何度も放送された。

 インタビューも流された。

「その目はどうしたんですか?」

「相生クリニックさんで美顔手術をしてもらったんです。素敵だと思うんだけど」

 その秋、一つ目顔が大流行した。

 手術費用は十万円で、入院は二日だった。それで一つ目になれた。

 二つ目のままでいるのは、クラスで私一人になったほどだ。

 私は平凡な女子高生。冬が過ぎ、春が来ても、二つ目のままだった。

 春になり、例のファッションリーダーが一つ目をやめ、二つ目に戻した。

「一つ目、飽きちゃったんです。この顔、けっこう新鮮でしょ。やっぱり普通が一番ですよ」と彼女は言った。そのニュースを見て、人々は相生クリニックに殺到し、二つ目に戻る手術を受けた。

 夏にはもう一つ目を見かけなくなった。私はほっとした。

 秋が来て、年が明け、冬になった。

 ファッションリーダーがまた新しい顔になっていた。彼女は三つ目で原宿を歩いていた。

 三つ目が流行したのは、言うまでもない。

 二つ目でいるのは、再び私一人になった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る