第13話 宇宙移民船団と地球人の戦争
人類が地球外生命を探していた時代があった。ことに地球外知的生命とのコンタクトを求めていた。実に牧歌的な時代だったと言うほかない、とおれは思う。
おれは大学で宇宙物理学を勉強していた。専攻は超弦理論だ。しかし宇宙戦争が始まって、大学どころではなくなってしまった。
やつらがやってきたんだ。
地球外知的生命体は友好的ではなく、侵略的だった。人類と似ていた。人類の歴史をかえりみてみればいい。戦争と侵略の歴史だ。アステカ王国とインカ帝国はスペイン人に滅ぼされた。アメリカン・インディアンはヨーロッパから来た移民に弾圧された。アボリジニもまた、移民に圧迫された。アイヌ人は日本人に住処を追われ、ほぼ同化されるに至った。
地球外知的生命体は移民船団に乗って、太陽系へやってきた。自分たちのことをチュタランと呼んでいた。チュタランは外見も地球人類に似ていて、空気を吸い、水を飲み、有機物を食べて生きていた。移民する星を探していた。地球はもってこいの星だった。
チュタランには地球人類の存続など眼中になかった。邪魔なだけだった。やつらは人類を滅ぼして、地球を手に入れようとした。チュタランは恒星間飛行ができる高度な文明を持っている。地球なんて簡単に侵略できると思っていたかもしれない。
おれも最初はそう思っていた。人類は終わる、と思って死を覚悟した。おれは人類とチュタランがファースト・コンタクトしたとき、ただの大学生で、無力だった。
しかし、後にわかったことだが、チュタランの移民船団はたったの二十隻しかなく、六千人程度のチュタランが乗っているだけだった。六千人のチュタランが百億人の人類を滅ぼすのはそう簡単ではなかった。
チュタランはまず、人類に降伏勧告をした。
「我々はチュタランだ。地球人よ降伏せよ」とやつらは電波を使って伝えてきた。もちろんそんなものには応じなかった。各国政府は団結して、チュタランと戦うことを確認した。おれはネットのニュースでその動きを追っていた。
チュタランは核兵器を持っていた。しかし、放射能で地球を汚染したいとは思っていなかったようだ。彼らはまず、生物兵器で人類を滅ぼそうとした。何十人かの地球人がさらわれて、移民船の中で人体実験に使われた。チュタランにはほぼ無害で、地球人には有害なウイルスが発見され、地球上にばらまかれた。それはチュタランウイルスと呼ばれた。チュタランには風邪のようなものだが、地球人には致死的なウイルスだ。
多くの人類がチュタランウイルスで死んだ。感染したら、致死率三十パーセントの恐るべきウイルスだった。おれも感染した。高熱が出て、肺炎を起こしたが、幸いにもおれは生き延びた。ワクチンが開発されて、チュタランウイルスに対抗できるようになったときには、約十億人が死んでいた。経済的にも打撃は大きく、地球経済は疲弊した。チュタランはまた降伏勧告をした。人類は応じなかった。侵略的宇宙人に徹底抗戦する構えだった。
国際的な対チュタラン戦線が結ばれた。各国が宇宙軍を編成して、チュタランの移民船団を攻撃する計画が立てられた。おれは大学を休学し、創設されたばかりの日本の宇宙軍に志願した。
日本にはまだ、宇宙軍なんてものは名前しかない時代だった。アメリカ合衆国から技術供与されて、日本は宇宙戦艦や宇宙空母の建造を開始した。宇宙空母に積載される戦闘機や爆撃機も製造された。おれは戦闘機のパイロット候補生となり、訓練を始めた。
アメリカ合衆国は世界に先んじて、チュタランを攻撃しようしていた。宇宙艦隊がアリゾナに集結した。チュタランは地球上空に張り巡らせた監視衛星群でそれを察知し、アリゾナに核攻撃をした。アメリカ宇宙艦隊は全滅した。
ヨーロッパから何隻かの宇宙戦艦が緊急発進した。チュタランは指向性のビーム兵器で、宇宙戦艦を爆発させた。地球の宇宙軍では、やつらを叩くのはむずかしいということがわかった。船団に接近すらできない。
地球人類は積極的攻撃をあきらめた。しかし、チュタランの上陸を阻止するべく、陸海空軍を充実させた。おれは引き続き、宇宙軍に所属していた。移民船団が地球の大気圏に入ってきたら、攻撃することになっていた。
チュタランはオセアニアを割譲するよう交渉してきた。オーストラリアとニュージーランドを寄こせば、それ以上の侵略はしないと言った。オセアニアに住む人々は猛烈に反対した。それに、チュタランを信用することはできなかった。人類は交渉を拒絶した。
チュタランは業を煮やしたようだった。オーストラリアに無人攻撃機を飛ばした。シドニーが空爆され、多くの人が死んだ。人類軍はオーストラリアを見捨てなかった。世界連合軍がオーストラリアに派遣され、無人攻撃機と戦い、多大な被害を出しながらも、全敵機を撃墜した。チュタランはわずか二十隻の船団しか持っていない。無人攻撃機にも限りがあるのだろう。攻撃は止んだ。
「ニュージーランドだけでいい」とチュタランは言い出した。
「我々は宇宙を飛び続けることに飽きている。地上で暮らしたいのだ。ニュージーランドを提供してほしい。それ以上は要求しないと約束する。三か月待つ。ニュージーランドに住む地球人を別の場所へ移住させてほしい。三か月たっても、ニュージーランドを明け渡さなかった場合、無差別核攻撃を開始する」
おれはあくまでも抵抗すべきだと思ったが、国際連合は無差別核攻撃を重く見たようだ。
「チュタランの持つ技術の提供と交換で、ニュージーランドを提供する」と国際連合は回答した。
「具体的には、移民船を一隻提供してもらいたい。移民船をテキサスに降下させ、引き渡すこと。それが完了したら、速やかにニュージーランド国民の移住を開始する」
チュタランはその交換条件を拒否した。
「我々の技術は供与できない。地球人類が我々と同じ技術力を持ったら、我々は地球人類に対するアドバンテージを失い、滅ぼされてしまうだろう」
「ニュージーランドにとどまる限り、チュタランを攻撃はしない。平和条約を締結しよう」
「条約など信用できない」
交渉は平行線をたどった。
三か月が過ぎた。チュタランはハワイを核攻撃した。ホノルルが消滅した。国際連合は折れ、ニュージーランドを割譲することを決めた。おれはニュースでそのことを知った。憤慨したが、日本の一兵士に国際連合の決定を覆す力はない。
ニュージーランド人は世界各国に移住した。チュタランの移民船団がニュージーランドに降下した。国際連合はしたたかだった。チュタランを受け入れたように見せかけて、実は攻撃する秘密計画を練っていた。移民船二十隻がウェリントンに着陸した直後、世界各国の政府が陸海空軍に戦闘命令を発し、総攻撃を開始した。おれも宇宙戦闘機に乗って、戦闘に参加した。
恐るべきは地球人の陰謀である。チュタランは抵抗し、地球軍を散々に苦しめたが、多勢に無勢だった。移民船は一隻を残して、すべて破壊された。残った一隻の移民船は地球陸軍が占拠した。中にいたチュタランはすべて捕虜にした。
この宇宙戦争に地球人類は勝利した。約一千万人の兵士が死んだが、おれは生き残った。地球人類は手に入れた移民船を分析し、別のチュタラン移民船団の到来に備えている。
地球外知的生命体など探さない方がいい。地球人類を含めて、友好的な知的生命など存在しないと考えた方がいい。それがこの宇宙戦争の教訓である。
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