みらいつりびとショートショート集
みらいつりびと
第1話 月を食べる
地球の人口は1兆人を超えたそうだ。
地球上は陸と海の区別なく団地におおい尽くされている。
人類は21世紀に滅亡のふちに追いつめられたが、かろうじて科学が勝利して生きのびた。分子変換テクノロジーと核融合エネルギーにより、無機物でも食料に変換できるようになった。そのおかげで滅びをまぬがれた、と歴史教育でならった。
人類は生きつづけ、増えつづけた。今年は西暦2421年。わたしたちは月を食べて生きている。
わたしは第DG2767団地の508号室に住んでいる。
人類の科学技術は進歩しつづけているが、一般人の生活水準は21世紀とあまり変わりがない。進歩しすぎた生活は人間を不幸にするとわかったからだとならった。本当かどうかはわからない。
ベーシックインカムによりふつうに暮らしていけるだけのお金を支給され、わたしは月をカレーライスやラーメンに変換したものを買って食べている。
主な娯楽は仮想現実ゲームだ。わたしは21世紀の自然の中で登山を楽しむゲームが好きだ。
しかしわたしはゲームよりもリアルを好む。
隣の部屋には男の子が住んでいる。
わたしは月を変換してつくられた砂糖や小麦粉を使ってクッキーを焼き、隣の部屋のベルを鳴らす。
扉が開けられる。男の子がにっこりとほほ笑んでくれる。
「こんにちは。DG2767-508-1さん。入りなよ」
「こんにちは。DG2767-509-1くん。クッキー焼いてきたよ」
「ありがとう8-1さん」
「どういたしまして9-1くん」
わたしたちはどちらからともなく笑い出す。
「もうこのいつものあいさつやめようよ、きゅうくん。おじゃまします」
「そうだよね。いつもやめようって言ってるのに、どうしてまたくり返しちゃったんだろうね、はっちゃん」
わたしはリビングのソファにからだを投げ出す。
きゅうくんが月を変換した水とティーバッグで紅茶をいれてくれた。
隣りあってソファに座り、紅茶を飲み、クッキーを食べる。
「月が半分になっちゃったね」
「月を食べつくしたら、なにを食べればいいのかしら」
「そのとき火星を食べるんだってならっただろう」
「そうだったっけ」
「そうだよ。ぼくたち一般人はなにも心配することはないんだ。すべては電子人がやってくれる」
「そうね。そうならったよね」
わたしはきゅうくんとセックスした。これがいちばん楽しい。
夜になり、空を見上げた。
今夜は満月だ。
半分の月が浮かんでいる。
※作曲家・ピアニストの上田凜子さんに「月を食べる」という曲を作ってもらいました。もしよかったらユーチューブで聴いてください。
https://www.youtube.com/watch?v=XlOpcA71ZJY
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