第10話 真実は想いが芽生え、嘘はその花を閉じる~夏合宿~②
「よし、じゃあみんな揃ったから始めようか」
ダイニングのとんでもなく大きいテーブルに先生を合わせた全員が座る。
「生徒には順次部活の顧問の先生などからお知らせがいくが、夏休みが明けて丁度二週間後に我らが四季高校と姉妹校である季節高校とで学校対抗戦がある。この学校対抗戦というのは、生徒が半分ずつ相手の高校に出向いて、体育会系の部活は試合をしたり、文化系の部活は作品を披露し合ったりするというものだ。季節高校とは姉妹校であるものの、これまで積極的に学校規模では交流がなかった。だから今年からはお互いにより教育的にも文化的にも交流を深めようということになったんだ」
「へえ、だからこの前政宗が季節高校の生徒会に顔を出していたのね」
星宮が納得したように言う。確かに、三上と下野の件を解決した日に秋城は季節高校に行ったとか言っていたな。
「色々調整が難しくて、報告するのが遅くなってしまって申し訳ないね。だから残りの夏休みと夏休み明けは、この学校対抗戦について準備していくことになる。なにせ初めての試みで大変だと思うが頑張ろう」
メンバーはそれぞれ頷く。
「何か質問はあるかい? といってもあまり答えられることはないが」
「向こうの学校と協力するってことは季節の生徒会と会わないといけないよな?」
俺が秋城に尋ねる。
「その通り。夏休み中に一回顔合わせをして、夏休みが明けるともう最終調整でいいくらいまではこちらの学校のことは準備しておかないといけないね。向こうもそのくらいの気持ちで準備してくれているはずだ。向こうの会長もなかなかのやり手だから安心していいよ」
「そうか」
「みんな決定と知らせるのが遅くなってごめんなさいね。初めての事だから教師も戸惑っちゃってね」
小夜先生が謝り、朝市先生も頭を下げる。
「いえいえー! みんな大変だけど頑張ろう! って今日は何するの?」
夏野が席から立ち上がりかけて、すぐに座りなおす。
「今日は誰が当日に向こうの学校に行くかや、競技としては何が考えられるか、部活に所属していない生徒はどうするかなど、基本的なことを決めよう。それが終われば後は全力で合宿を楽しむ。この先忙しくなるから、労いということでね」
「じゃあ、早速始めましょうか」
霜雪がそう言い、生徒会としての会議が始まった。
学校ではないとはいえ、朝市先生も小夜先生もいるので必要なことや、できないことなどがすぐに確認できたので、比較的円滑に内容が固まっていった。そもそも秋城をはじめ、生徒会の連中は優秀なので、人に関わらず一定の時間がかかってしまういつもの事務作業とは違い、あれよこれよと対抗戦の基盤ができた。予定としては昼食を食べた後も会議だったが、少し昼食の時間を遅らせたくらいで、今できることが大体終わった。
「終わったーーー!」
月見が伸びをしながら叫ぶ。
「いやー、さすがはお前らだ。早めに終わったな。合宿の残りは存分に遊び倒せ」
朝市先生も月見と同じように嬉しがる。
「うう、何もお手本がないから体育祭より大変かも」
夏野が机に突っ伏し、隣に座っている霜雪が夏野の背中をさする。
「夏野さん、取り敢えず合宿の間はもう対抗戦のことを忘れましょう」
「うー、真実ちゃーん。頑張ったあたしにもっと優しくしてー」
霜雪が夏野の頭を撫でる。
「じゃあ、お昼ご飯にしますか?」
春雨の提案に従い、各々が来る途中で買ってきた昼食を食べ始める。
「ご飯食べたら何しますか?」
月見がおにぎりを頬張りながら尋ねる。
「そうね、昼食が終わったら少し休憩して近くの山でも登りましょうか。片道数十分で頂上に着くから丁度いいと思うわ」
「そうだな、頂上でまったりして下山したら夕食の準備を始めよう。今日はカレーだぞ。合宿って言ったらやっぱ外せないよな」
小夜先生と朝市先生が予定を教えてくれる。登山なんてなかなかする機会はないが、体育祭以降、積極的に運動してかなり体力を付けたし、数十分で登れる程度の山なら余裕だろう。
昼食が終わり、三十分後に出発ということでひとまず解散する。夏野たち他のメンバーは一階で何やら話しているが、俺は少し休息を取ることにし、部屋に戻ってベッドに横になる。木目の天井が目に入る。合宿に学校対抗戦の準備、結局残りの夏休みも忙しくなるなと思いながら俺は目を閉じた。
「まこちゃんー。ねえ、起きて」
夏野の声が聞こえたような気がしたので目を開けると、やはり夏野が目の前にいた。どうやら俺は寝てしまっていたらしい。
「もう時間になったよ。ほら行こ?」
夏野が俺の手を握って引っ張り起こし、そのまま歩き出す。
「もう起きたよ。ほら、手を離せ」
「だーめ、夏祭りの時のお返し。寝坊したんだから罰と思って我慢する!」
「その言い方だとなんか悪いことしたみたいじゃないか」
「えへー、でもあたしもあの時のまこちゃんみたいにこんな風に手を引っ張って誰かを連れ出したいな。まあ、今まこちゃんを連れ出してるんだけど」
夏野が嬉しそうに笑う。そしてコテージの外に出る前に手を離す。
「はい、逆王子様ごっこ終了! どう、ドキドキした?」
「まさか、そんなこと感じるほどまだ脳が起きてない」
「もー、そんなこと言うまこちゃんにはもうやってあげないんだからね」
「そんな機会そうそうないだろ」
夏野と話しつつ、ドアを開けると、既に外には全員揃っていた。
「すみません、寝ちゃってました」
「いいのいいの。輝彦も私が起こすまで部屋で爆睡してたから」
「しょうがないだろ。今日は早起きだったんだ」
朝市先生が小夜先生に反論している間にコテージの鍵を閉める。
「じゃあ、出発しましょうか」
秋城が先導し、近くの山での登山が始まった。
案の定、最初は秋城が先導していたが、月見と夏野の猪、犬コンビがはしゃぎながらどんどん登っていく。そしてその後ろに朝市先生、小夜先生、星宮が談笑しながら登山をごく普通に楽しみ、さらにその後ろに秋城と春雨、最後尾に俺と霜雪がいる。
「霜雪、大丈夫か?」
霜雪は顔自体は涼しそうだが、歩くスピードはかなり遅い。
「ええ、これくらいの速さじゃないと登り切れる自信がないからそうしているだけ。冬風君は別に付き合ってくれなくてもいいわよ」
「いや、小さいとはいえ一応山だから一緒にいるよ。まあ、こんな整った一本道でどうやったらはぐれるって感じだがな」
「お気遣いありがとう。冬風君って言い方はともかく面倒見がいいわよね」
「それは分からないが、美玖と二人だけで過ごしていた時間が長かったからな」
「なんでも美玖さん基準なのね」
「美玖以外と関わるような学校生活じゃなかったからな。親はなかなか家に帰ってこれないし」
「そう、でも美玖さんは冬風君がお兄さんで良かったわね」
「なんでだ?」
「あなたは自分が思っているより人に優しいわ」
俺は霜雪の言葉には返事をしなかった。霜雪も返答は求めていないだろう。俺はこの沈黙の後に何を話そうかと思いながら登山を続けた。
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