第8話 嘘も誠も夏に弾ける~プール~②
「二つ列があるけどなんでだ?」
「んー、分かんないや。取り敢えずこっちに並ぼっか」
夏野に連れられるがままにウォータースライダーに乗ることになってしまった。まあ、プールに来て何もしないわけにはいかないので、観念して行列に並ぶ。回転は意外と速いようで、平均して十五分ほどで自分の番が回ってくるようだ。
「夏休みだけあって人多いねー、迷子になっちゃいそう」
「県内で一番大きいプールだしな。迷子になるなよ。祭りの時みたいに変な奴にまた絡まれるぞ」
「うん、気を付ける! そういえばまこちゃん、祭りで助けてくれた時、あたしのこと大切な同級生って言ってくれたよね。まこちゃんに大切って言われてあたし、すっごく嬉しかった」
「そういえばそんなことも言ったな。あの時は夏野のことなんて言えばいいか分からなくて……。秋城とかならもっとスマートに連れ出せたと思うがすまん」
「まこちゃんがなんで謝るのー、あたしもまこちゃんのこと大切な同級生で、同僚で、仲間だと思ってるよ」
「多いよ。……大切ってなんだろうな。とっさに口から出たけど、なんでそう思ったのかは今になっては分からない」
「何をもって大切って言うのかは分からないけど、まこちゃんが大切ってことは分かる。難しく考えても分かんないよ! ほら、あたしたちの番が近づいてきたよ」
少し先を見ると、入り口では二つあった列が、俺たちが並んでいる列だけになっており、一度に二人ずつ、膨らませるタイプのソリに乗って滑っている。二人ずつ?
「おい、夏野、この列二人用だ!」
「えー⁉ ここまで並んだのにー!」
「……降りるか」
美玖と一緒なら別にいいかと諦めるところだが、霜雪に指摘されたばかりだ。夏野と一緒に滑るのはさすがにまずい。
「……乗ろう。まこちゃん、もうあたしたちは引き返せない所まで来てしまったんだよ。このまま行こう」
夏野は何かを覚悟したような顔で意味の分からない事を言い始めた。
「おい、なんだその口調。まだ間に合うだろ。夏野?」
夏野は遠くを見つめて俺に反応しなくなった。そうこうしていると俺らの順番になり、係員に言われるままに夏野と向かい合って座る。
「これでいいのか?」
一応夏野に確認する。
「まこちゃん、見ないで」
「ん? 何をだ?」
「いいから目をつぶっててー!」
係員の「いってらっしゃーい」という声と共にソリが押し出され流れに乗って加速する。
俺は意味が分からないが夏野に言われた通り目をつぶっているので、全くソリの動きが予想できずに恐怖でしかない。その正面で恐らく夏野は全力でこのスライダーを楽しんでいるような声をあげている。
数十秒ほど流され、麓のプールに投げ出される。そして下に待機していた係員が「お疲れ様でーす」とソリを回収した。
「いやー、すごく楽しかったね、まこちゃん!」
夏野が満面の笑顔で俺に話しかけてくる。
「なわけあるか! 夏野が目を閉じろって言うから閉じてたら、えぐいほど怖かったぞ! トラウマになるわ!」
「だって、色々と恥ずかしかったんだもん! ねえ、もう一回行く?」
「二度と行くか!」
俺と夏野は麓のプールから出る。
「やあ、楽しんでるね」
声を掛けられ後ろを向くと秋城がいた。どうやら一人用のスライダーを滑っていたらしい、少しして月見もスライダーから流れてくる。
「誠、二人用のスライダーに奏と乗るとはどうしたんだい?」
秋城はいつものようにからかう対象を見つけたと言わんばかりにニヤニヤしながら聞いてくる。
「間違えてそっちに並んだだけだ。次そのことに言及したら海の藻屑にしてやるから覚悟しろ」
「ここはプールだよ、誠」
それより、と秋城が続ける。
「もうお昼だ。一日遊ぶのに昼食を抜くのは良くないから、少しでも何かお腹に入れよう。ボックスに戻って財布を取ってこようか」
「賛成―!」
俺と秋城、夏野、月見はボックス席まで戻った。
席に戻ると星宮ら他のメンバーは既に昼ご飯を食べ始めていた。
「先に頂いているわ。売店すごく人が多かったから、気を付けないとはぐれちゃうわよ」
「お昼時だからしょうがないね。どうする? 少し落ち着いてから行くかい?」
「そうだな、ちょっと待つか」
取り敢えずボックスの中に入り、休憩することにした。
「ねえ、真実ちゃん! 後でウォータースライダー行かない⁉ さっき乗ったけどすっごく楽しかったんだ!」
「え、ええ。行きましょうか」
「誠先輩! 競技用のプールあったんで勝負しませんか? 政宗先輩も一緒に」
「面白そうだね。誠、どうだい?」
「ああ、分かった」
「よーし、じゃあいっぱい食べてエネルギーを補給するぞー」
「じゃあ、私たちもウォータースライダー行ってみましょうか」
「さ、賛成です」
「行きましょう!」
午後の予定を決め、星宮たちがご飯を半分ほど食べたくらいで、後着組も売店や屋台でご飯を買ってきてそれぞれ昼食を済ませた。
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