マスクの孤独

@makiful777

第1話

中国で新型肺炎、というニュースを見たのはまだ冬の真ん中らへんだった。

遠い国の自分とは無関係なニュースとして聞き流していた。


いまやマスクをしていない人を探す方が難しい世の中になっている。

新しく出会う人も、なかなか顔を覚えられない。

目の印象と服装、仕草から推測するだけだ。

どうやって覚えればいいのだろう。

そして、しばらく会っていなかった人は、もう顔がわからなくなってしまうのではないか。


友達の顔を思い出そうとしても思い出せない。

絵も描けない。

画像を見てもピンとこない。

マスクをしているあの人と本当に同一人物なのか。

もうこのまま、誰の顔も思い出せないんじゃないか。

通話やオンラインでも、実感がわかない。

生身の人を感じられない。

声も、本当の声とは違う。


マスクひとつで人は本当に孤独になれるのだと、初めて知った。


顔を半分隠していることが、こんなにも人とのつながりを疎遠にしてしまうのだろうか。

好きなあの子の顔もわからなくなってしまった。

心から笑える日なんて、こないんじゃないか。


そんなことを考えていた矢先。

ひさしぶり、と後ろから肩を叩かれた。

振り返ると、彼女がそこで笑っていた。

顔が半分隠れていても、彼女のことはわかるんだ。

そして彼女も、後ろ姿の自分がわかるんだ。


孤独なんて、あっけなくどこかにいってしまう。

そんな青春のリアル。

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