第9話 鍋パ

どうしようかな


冷蔵庫から水を取り出していると

キッチンにいる、ゆきの呟きが聞こえた


「どうした?」


ゆきが越してきてから、キッチン周りが充実した


「週末、鍋でいいかなぁ?」

「あぁ、いいねぇ。時期的にもいいんじゃない」


週末に美樹を呼ぶって言ってたっけ


「一美さんも、仕事終わったら来てくれるって」

「そうなんだ」

「もう1人、誰か連れてくるようなことも言ってたけど」

「・・・誰かって、、」

全く、この人は。。


「あ、私がまだしっかり聞いてないだけで、変な人ではない、、と思う・・・」

「ゆきがいいなら…いいけど」


「しょうちゃん、その日大丈夫?」

「うん、呼び出しがなければ。買い出しとか手伝うから言ってね」

「うん、ありがと」


「もう寝る?」

「うん」

「どっちで?」

「しょうちゃん、誘ってる?」

「だったら?」


「うぅ..この状況じゃ拒否れない」

さりげなく、腰に腕をまわし

今にもキス出来る態勢だ


「そう?嫌ならそう言ってく……」

甘いキスの返事が返ってきた。





「で、なに鍋にするの?」

「寒波きてるから、キムチ鍋にしようと思って」

寒いと思ったら、寒波きてるんだ

「・・・なるほど」


「しょうちゃん、天気予報くらい見たら?せっかくテレビ持ってきたんだから」

心の中、読まれたような返しをされながら

スーパーで買い出し中


2人で買い物ーーそれも食料とか日用品とかーーって、なんかいいなぁ

って思ってるのは、私だけか


ゆきは、さっさと食品をカゴに入れ

通路を歩きレジに向かう


重い荷物は持ったけど、車までのこと

結局、大して手伝えなかったなぁ


帰宅後、冷蔵庫に食品をしまい

一息つくと


「しょうちゃん、プリン食べる?」

「ん?うん、食べる」


「車出してくれてありがと。買ったプリンだけど」

クリームが乗ってるやつだ。好きなんだコレ

「ご褒美?お駄賃てきな?」

「まぁ、それもあるけど。嬉しかったし」

あ、照れてる?


「そっか、車ならいつでも出すよ」

「ふふ、そんなにプリン好き?」

「うん…好き」

プリンだけじゃないけど。




「一美、遅くなるって?」

「うん、ほら結構雪が降って公共交通機関乱れてるでしょ?仕事の方が大変みたい」

「そっか〜旅行代理店も大変だね」


一美の到着を待たず

美樹とゆきと3人で、先に食べ始めている


「でも、いろんなところに仕事で行けるのは羨ましいな」

ゆきが言う

「確かに。旅行なんて全然行ってないなぁ」って、呟いたら


美樹の視線が何か言いたげだ


「祥子さん、連れてって」

「え?」

「って、言ってるんですよ?」

「あ、そか」

「少しは女心、わかってくださいね」

美樹は厳しい

「勉強になります」




「やっぱり鍋は温まるね、美味しい」

「このお酒もおいしいね」

2人は、今日は日本酒だ

2人とも強い

普段とほとんど変わりない

なんでだ?


お鍋の中身が半分くらいになった頃

一美がやってきた

久しぶりに会う、彼女を連れて



「お邪魔しまーす」

我が物顔で入ってくる一美の後ろから

「こんばんは」

と入ってきたのは


「唯ちゃん?」

「お久しぶりです」

「ほんとに〜何年ぶり?すっかり…大人、っていうか綺麗になって〜」


誰?

美樹がこっそり一美に耳打ちしてる


「あ、えっと」

紹介しようとしたら

「立花唯といいます。祥子さんには命を救って頂きました」

「いや、私は何も…応急処置しただけで」


私がまだ研修医だった頃、偶然事故現場に遭遇して応急処置をしたのが唯ちゃんだ

当時は、まだ小学生だった

その後、何度か会ったことがある

綾とは定期的に連絡取っていたようだけど。





「まぁ、とりあえず座ってください。話は食べながらで」

と、言いながら

ゆきは、新しい野菜やお肉を鍋に入れている


「あ、私はご挨拶だけで失礼します。もう遅いですし」

「え?そうなの?」

「ごめん、私の残業のせいで遅くなっちゃって」と一美が謝ってる


「明日は休みじゃないの?」

「門限があるとか?」


「いえ、明日は予定もないし、一人暮らしですけど」


「じゃ、ご飯だけでも食べてってよ。責任持って送っていくから」

「いいんですか?」

「もちろん」


「あ、祥子、飲んでないんだ?」

「うん、美樹も送ってくつもりだったから」

って言うと

「え〜私、泊まってもいいよ」

と美樹がニヤけてる

「いや、帰れ!」

「ちぇっ」


「一美、何飲む?唯ちゃんは、まだ未成年だっけ?」

「あ、私もみんなと一緒でいいよ、熱燗で。今日も寒かったねぇ。唯ちゃんは花の女子大生だよね?N大医学部に現役合格って凄くない?」

一美は相変わらず舌好調


「それは凄い」

「大学生活、楽しそう」


「ところで、なんで一美が唯ちゃん連れてくるの?」

ずっと疑問に思ってたことを聞く


「あぁ、ちょっと前に綾のところで会ってね。祥子に挨拶したいって言うからさ」

「ふぅん」

「綾さんとは、時々会ってたんですよ。なんで別れちゃったんですか?」

お似合いだったのに...と言う


一瞬、空気が冷えた気がした


「えっと、、知ってた…の?」

「はい、なんとなく。で、後々綾さんに聞きました」

「そう」

「私を助けた事が付き合うキッカケになったんですよね?」


飲んでたウーロン茶吹き出しそうになった

アイツ、どこまで話したんだ?


「どうだったかなぁ?まぁ食べて食べて」


一美は言わなくても食べてるね

ゆきは、お酒の準備とかいろいろ動いてる

美樹は、また冷ややかな視線だ




〆の雑炊を食べ終えて

お開きにする


未成年もいることだし

早めに送り届けたい


「そうだ唯ちゃん、美樹ちゃんから貰ったデザートがあるから持って帰って」

と言う、ゆきに

「いいんですか?嬉しいです」

と言いながら、一緒にキッチンへ消え


美樹は「お手洗い借りまーす」と消え


「あのさぁ、祥子」と神妙そうな顔の一美が残る

「なに?」

「今度、綾と3人で会えないかなぁ?」

「それは…ちょっと難しいかな」

「そっか、そうだよね」

「私のことは、気にしなくていいよ」

「え?祥子?」


「お待たせ〜」

美樹が帰ってくる


「じゃぁ、行こっか」



3人を車に乗せて順番に降ろしていく


一美は「そこのコンビニでいいよ、買い物して行くから」と言い

コンビニで降ろす



美樹のアパートまで行き

「祥子さん、ちょっといいですか?」

と言われ

唯ちゃんには車で待っててもらい、玄関先まで行く


「どうした?」

「あの娘、気をつけた方がいいですよ。祥子さん、狙われてます」

「はい?」

「トイレに行った時聞こえちゃったんだけど、ゆきちゃんを挑発してましたよ」

「え?」

「もし誘いに乗って、ゆきちゃん泣かせたりしたら許しませんからね」

「あ、はい」

美樹は、やっぱり厳しい




最後に、唯ちゃんが一人暮らしをしているというアパートへ


「良かったら、コーヒーでも飲んで行きませんか?」と誘われるが

「もう遅いから、ここで。ありがとう、気を使ってくれて」と断る


「そうですか、ちょっと話したいことがあったんですけど」

「どうしたの?」

「綾さんと一美さん、付き合ってますよ?今日もこれから会うんだと思います」

「...そう」

「驚かないんですね?」

「私がとやかく言うことじゃないよね?それに…唯ちゃんが私にソレを伝えることじゃないよね?」

「それは…祥子さんのためを思って」

「んん?何が私のためなのかよくわからないんだけど。私が傷つくとでも思ったの?2人とも大切な友達だから、幸せになってほしいと思ってるよ。でも、それは2人が決めることだから」

「そう...ですね」


「それから、今日、綾のこといろいろ話してたけど、わざとだよね?

私と、ゆきのこと知ってたんだよね?

あんまり、人の気持ちを弄ぶようなことはしない方がいいよ。仮にも医師を目指すなら、人と真摯に向き合ってほしいな」


しばらく考えていた唯ちゃんは

少し顔を赤くして


「すいませんでした」

素直に謝ってから

「でも、私、祥子さんが好きなんです。好きだから、つい、試すようなこと言っちゃって...ゆきさんにも...ごめんなさい」


「うん、それは…たぶん憧れとか..じゃないかな?ずっと会ってなかったし、歳だって離れてるし...」


「最初はもちろん憧れでした。綾さんともホントにお似合いで。だから諦めようとしたんだけど。でもいつか一緒に働けたらって。医学部目指す程には本気で。ずっと会ってなかったけど、それでも気持ち変わらないことありますよね?実際、今日会って話して、やっぱり好きだと思いましたし。歳の差とか、関係あります?」


うぅ、反論出来ない

いちいち、ごもっとも

ずっと会えなくても、気持ちは変わらない。

その事は私が1番知ってる


ひとめで恋に落ちることも。


人を想う気持ちを、軽々しく決めつけるものじゃない



「そうだね、ごめん。気持ちは嬉しいよ。でも私にも大切な人がいるから唯ちゃんの気持ちには応えられない」



「諦めません」

「唯ちゃんには、もっと相応しい人がいると思うよ」

「それを決めるのは私です」

「うぅ...確かに」


はぁ。ため息を一つ吐いて

「好きな人を困らせたくないので、今日はこの辺で。また、そのうち告白しますので」

と言う


「うん、わかった。その都度振ってあげるよ」


真摯に向き合わなきゃいけないのは、私の方だ




帰宅すると、片付けはほとんど終わっていて

リビングに、ゆきの姿はなかった


もう寝ちゃったか


軽く部屋のドアをノックしてみたけど返事はない


お風呂に入り温まる

長い1日だったな


お風呂から出て水を飲んでいると

ゆきがやってきた


「起こしちゃった?」

何も答えずに抱きついてくる


寝起きの体はポカポカしてて

いつにも増して安心する

しばらく、静かに抱き締める

「…落ち着く」思わず漏れた



「一緒に寝ていい?」

「もちろん」




ベッドに移動して


そっと頬に触れる

「ねぇ、ゆき。泣いてないよね?」

「うん、大丈夫。信じてるから」

良かった



「唯ちゃんに、何か言われたの?」

「ん〜宣戦布告みたいな…」

「そう」

「告白された?」

「うん」

「そっか」

「信じてくれてありがとう」


その夜は、抱きあったまま眠りについた




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