息子はスマホになりたい
南木
息子はスマホになりたい
ある日私がスマホでニュースを見ていると、こんな記事があった。
『子供がなりたい職業で「ユーチューバー」が上位に? 危ぶまれる日本の教育』
なんでも、最近の子供は楽してお金を稼ぎたいという考えがあり、そんな考えを持ち続けると、将来はフリーターやニートになってしまう恐れがあるんだそうな。
子供のうちから医者とかスポーツ選手を目指すような、高い目標を子供を育てるには、常日頃からの子供と親のコミュニケーションが大事なのだとか。
私的に、ユーチューバーになるのは別に悪いとは思わないけれど……男子の親として、この記事を読んでいるとちょっとだけ不安になる。
(そういえば、あの子の将来の夢ってなんだろう)
そろそろ学校から帰ってくるはずの息子が、将来どんなものになりたいか、そういえば今まで一度も聞いたことがない気がする。
と、ちょうどそんなことを考えていたら、玄関があく音がして、息子が帰ってきた。
「たっだいまー。お腹空いたからおやつ食べたい」
「…………じゅん君、おやつの前にちょっと聞きたいことがあるの」
「へ? なになに?」
「あのね、じゅん君が将来なりたいものって何かあるかな?」
「将来なりたいもの?」
息子はきょとんとした顔をしている。
まあ、無理もないか。私だっていきなりそんなこと聞かれたら、少し悩むし……
「じゃあオレ、スマホになりたい!」
「スマホ!!??」
なりたいものはまさかの
「え、えと……スマホを売る会社の人のこと? それとも、アプリを作る人のこと?」
「ううん、スマホになれたらいいなって思う!」
何かの聞き間違いかと思ったけど、この子本気でスマホになろうとしてる!?
どうしてそうなるの!?
前々からちょっとおバカなところがあると思ってたけど、小学2年生でモノになりたいだなんて…………
思わず「それはちがうでしょ!」と言ってやりたかったけど、ここはぐっとこらえて、理由を聞いてみることにする。
「そ……そうなんだ。なんでスマホになりたいのかしら?」
「だって、スマホって便利でしょ」
「まあ確かに便利だけど……」
「いつでもどこでも持ち運べるし、電話もメールもカメラもラインも、何でもできるでしょ? わからないことがあったらすぐに調べられるし、道がわからなかったら地図にもなるよね!」
ああなるほど、ようやく息子の考えてることが読めた気がする。
「要するに、じゅん君は何でもできる大人になりたいってことね」
「うん、そうだけど、やっぱりオレ、スマホになりたい! テレビも見れるし、映画も見れるし、本も漫画も読めるんだよ! あと、お料理するときも教えてくれるし、掃除機やクーラーを動かしてくれるんだよ! お財布にもなるし、困ったら懐中電灯にもなるから、とってもお役立ちだと思う!」
お役立ち――か。言われてみれば、私が持ってるスマホ一台で、本当にいろいろなことができるんだなって改めて思った。
最近料理するときはレシピサイトでメニューを探すし、ニュースを見るのにテレビも必要ないし、本を読むのに分厚いものを持つ必要もない。
最近だとボタン一つでルンバやエアコンも動くし、買い物だってキャッシュレスでできる。
息子に言われて改めて意識するけど、スマホはすごいわ。
以前冗談で「女の人の理想の男子はATM」なんてネットで言われてたけど、もしスマホみたいな人がいたら、それこそ男女問わず色々な人に頼られるかもしれない。
(そうか、この子は将来人の役に立つことがしたいのか!)
スマホになりたいというのはあれだけど、大人になったら人の役に立てるような存在になりたいという気持ちはとっても立派だと思う。
まだ小さいと思っていた息子が、いつの間にかこんなに立派な考えを持ってるってわかると、とても嬉しくなる。
「じゅん君の気持ち、ママにもよくわかったわ! スマホになることはできなくても、じゅん君が人の役に立ちたい気持ちはずっと大切にしてほしいわ!」
「そう? じゃあ……オレがスマホになれなくても、ママはオレのこと頼りにしてくれる?」
「……………え?」
「だって、ママはいつもスマホと一緒でしょ? 朝起きたときから寝る時までずっとスマホ持ってて、ご飯の時もスマホでお話してるよね。ママはスマホと一緒だとすごく楽しそうだから、もし俺がスマホになれれば、ママと一緒に遊んだりしゃべったりできるようになるんじゃないかなって。オレ、まだスマホみたいには役に立てないけど、いつかはスマホの代わりにママと…………あれ? ママ、泣いてる?」
私はその日から、スマホは電話とメール以外使わなくなった。
息子はスマホになりたい 南木 @sanbousoutyou-ju88
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