番外編 ユーキの日常②

 あー、今日も退屈だなぁ。


「ユーキ様ったら、今日もゴロゴロばっかりして……ちゃんとお仕事もしてくださいよ」


「わかってるよー。でも、なんかこうインスピレーションが湧かなくてさぁ」


 キャンピングカーの上でゴロ寝していると下からフリージアが両手を腰にあててプンスカと頬を膨らませていた。


 白銀の髪にルビーのような赤い瞳をした彼女はボクの助手である。なんで片手にスリッパを握り締めているのかは謎だけどね。もしかしてまたボクの頭をスパァン!てするつもりかい?


「フリージアこそ何してるのさ?」


「掃除ですよ!砂漠を走ったせいかキャンピングカーの中にも砂がいっぱい入っちゃてるんです。ほら、ヴィーさんも手伝ってくれてるんですよ」


 そう指差された方向を見ればヴィーが羽をパタパタと動かして水の入ったカップを運んでいた。


『見てください、ユーキさん!ワタシの洗ったカップはピッカピカですよ!』


 えっへん!とふんぞり返ったヴィーのどや顔に若干イラつきを覚えつつ……平和過ぎてやっぱり退屈だなぁ。と思うのだった。








 ***







「そうだ、ポケ○ンボール作ろう」


『なんでそんな、“そうだ、京都行こう”みないなノリでとんでもないこと言ってるんですか』


「何言ってるんだい。ポ○モンボールと言えば人類の至宝じゃないか。何と言っても巨大な伝説的生物すらもポケットサイズのボールに押し込められるんだよ。物理的に絶対無理なのにそれを可能にする……オー○ド博士は真の天才さ!」


『だからぁ!世界の均衡を崩すようなものは作っちゃダメですからね!例の巨大魚をそれに詰め込んで持ち歩こうなんてもってのほかですよ!』


 なんてことだ。なぜか企んでいたことが全部バレているじゃないか。


「くっ!このロマンがわからないなんて……」


 ボクとヴィーがバチバチと火花を散らしていると、その間にずぃっとフリージアが割り込んできた。


「ユーキ様!また売り物とは違う物を作ろうとしてるんですね?!ユーキ様の本業は便利グッズの開発と販売なんですよ?それにヴィーさんとケンカしちゃいけません!」


「なんだよ、フリージアまで……「それに、先にわたしにナウ○カごっことラ○ュタごっこを教えてくれる約束です!」……あっ、そうだったね」


 両手を胸の前で組み、ほんのりと頬を赤く染めるフリージアは、モジモジとしながらボクを見た。


「ユーキ様と一緒に滅びの呪文を唱えるの、楽しみにしてるんですよ……」


「ごめんね、フリージア。まずは飛行石を作って……それからオ○ムと1人用の飛行装置と……あぁ、作るものがいっぱいだね!

 ヴィー、フリージアと遊ぶだけなら作ってもいいだろう?」


 すると今度はヴィーまでもがモジモジし出してぽそりと呟いた。


『遊んだ後にちゃんと片付けてくれるなら……。ワ、ワタシも一緒に遊びたいです!』


「よーし、じゃあミニサイズのラピ○タを作ろう!ボクが名言を教えてあげるよ!」


「わぁ!なんですか?ユーキ様!」


「ふふふ、それは出来上がってからのお楽しみさ」


 こうしてボクたちはナウ○カごっことラ○ュタごっこをたっぷりと楽しんだのだった。





『なんか、ユーキさんってもうなんでもありになってきましたよね。このまま神様にでもなったらどうですか?』


「ボクにだって出来ない事くらいあるさ。それに、ボクは気ままに楽しく暮らしたいんだよ。神様なんてめんどくさいものごめんだね」


『まぁ、その方がユーキさんらしいですけど……。確かにユーキさんが神様になったらそれはそれで大変そうですね』


 物分かりのいい元神様はため息をひとつつく。ヴィーはヴィーなりに思うところがあるらしい。


「さーて、フリージアにコーヒーでも淹れてもらおうかな。ヴィーもカフェオレ飲むだろう?こっちにおいでよ」


『はーい!すぐ行きます』


 歩き出すユーキの後ろ姿を見ながらヴィーが再びため息をついた。それは深いため息を。


『……ユーキさんの能力がすでに、神様派遣協会の上司だった奴をかなり越えている気がするんですけど……あれはその気になれば全宇宙を支配出来ますよ……』


 ヴィーがユーキに与えた能力は、元々は材料さえ揃えれば生成できるといういわゆる錬金術的な能力で、等価交換が基本だったはずだった。


 ユーキは気付いていないようだが、最近のユーキが作る物はどう考えてもこの世界に材料があるとは思えない物ばかりである。


 もしかして異世界から材料を調達してるのでは?とかなんとか思うのだが……あえて突っ込まないことにしたヴィーなのであった。


 触らぬ神に祟りなし。とは、よくいったものですよね。と、ヴィーは疑問を胸の奥にそっとしまい、カフェオレに向かって羽を動かすのだった。


『ワタシのカフェオレはミルクたっぷりにしてくださーい』

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