スピンオフ話その2-3 ユーキの顔面は神様よりも尊いようだ

わたしはとある王国の3番目の王女として産まれました。


わたしの上にはすでに兄がひとりと姉がふたりいたので産まれたばかりのわたしを見て国王である父は「また女か」と呟かれたそうです。


喜ばれはしなかったものの、産まれてからしばらくは末っ子王女だと可愛がられたこともありましたがそれも数年で終わりを告げます。


若い側室が男の子を産んだからです。


王太子は兄ですがやはり王子は多いにこしたことはないらしく、その子はとてもとても可愛がられました。


それから側室はさらに2年後、男の子と女の子の双子を出産。この国では双子は縁起がいいらしく、父は心から喜びました。


末っ子でもなくなり、男でもなく成績もさほどよくないわたしは優秀なふたりの姉が目立つほどに父に忘れられていく気がしました。


ですが、10歳の誕生日の時にこう言われたのです。


「お前は美しくなってきたな。もっと美しくなりなさい」と。


わたしの見た目が美しいと誉められました。

父に誉められたのは初めてだった気がします。


それからわたしは美しいものが大好きになりました。人でも物でも美しいものを鑑賞していると心が安らぎます。


わたしが美しくなればなるほど父はわたしを誉めてくれます。欲しい物もなんでも与えてくれて優しい言葉もかけてくれます。


「美しいお前は愛されるべき高貴な存在だ。お前ほど美しければ他国の王子も必ずお前の虜になることだろう」


産まれた時こそ落胆されたが、今はこんなに父に愛されていると思うと幸せでした。


わたしはとても美しくて、みんなに愛されるべき高貴な存在なのだと。美しいわたしには美しい相手がふさわしいのだと。そう言われ続け成長したわたしは、いつの間にか心が醜く歪んでいったのでしょう。


だからワガママを振りかざし、あんなことをしでかしたのです。


確かにわたしは姉妹の中では1番美しかったと思います。でも今から思えば、父に誉められれば誉められるほど兄も姉も腹違いの弟たちや妹も、誰もわたしに近寄らなかったのです。


ひたすら美しいものを追いかけ、自分が美しくあることに拘る姿はなんとも滑稽だったことでしょう。


そんなわたしがセレーネ様に楯突いた事がわかると、父はすぐにわたしを見捨てました。あの時兵士に見せられた手紙に『お前のような役立たずはもういらぬ』と書かれていたのを見て目の前が真っ暗になったのを今でもよく覚えています。


もうわたしには利用価値がないどころか、邪魔な存在になってしまったようです。

あんなに追いかけていたオスカー様はわたしの名前すら覚えてなかったし(今となってはなんであんな馬鹿を追いかけていたのか意味不明ですが)もう絶望するしかありませんでした。


そんなわたしを助けてくださったのは、まさかのセレーネ様でした。


怨みごとを言われるか、蔑まされるだろうと覚悟していたわたしにセレーネ様は笑顔を向けてくださり、そして……ユーキ様に出逢わせて下さったのです。


最初こそユーキ様の美しい顔に心奪われましたが、ユーキ様と過ごす間にその内面にも触れてわたしは変わることが出来た気がします。


わたしはユーキ様が大好きです。

たまに意地悪で、そっけなくて、でもわたしを助手として大切にしてくださるユーキ様の側にいるのが幸せなんです。


わたしの知らない世界を教えてくださるユーキ様といると毎日がとても楽しいんです。


ユーキ様といると、わたしが元王女だとか父王に見捨てられ母国を追放された事などとても些細な事に感じられて今では父や母国に未練もありません。


なにより、ユーキ様の顔面はどんなに見慣れてもやっぱりご飯3杯は軽くいけるんですからーーーーっ!


「ーーーーユーキ様の素顔を拝む権利は誰にも渡しませんからねぇっ!!……はっ?!」


「……意識が戻ったようだね、フリージア」


自分の中に誰かが入ってくる感覚に襲われそのまま深く眠りそうになったのですが、ユーキ様の顔面を思い出しながらなんとかそれを振り切り舞い戻ってきました。そしてわたしが目を開けると、なんと眼鏡を外したユーキ様の顔が鼻先が当たりそうなくらい間近にあったのです。


「気絶したかと思ったら息をしてないから人工呼吸しようとしてたところだったんだけど、元気そ「あ、やっぱり呼吸が止まりそうです!」うん、それだけ元気なら大丈夫だ」


素早く離れて眼鏡をかけるユーキ様。もう少しだけ気絶してればよかった……!


「……それにしても、まさか(自称)神様に体を乗っ取られたのに自力で戻ってくるなんて……(自称)神様もたいしたことないね」


「えっ、わたし神様に乗っ取られてたんですか?」


ユーキ様がやれやれと言うように手鏡を渡してくれたのでそれを覗き込むと……なんと鏡の中のわたしは髪色が白銀に輝き、瞳も赤くなっていたのです。


「なんなんですか、これぇ?!」


確かにさっき体が光ってたような気がするけど、まさかこんなことになるなんて……。


神様に乗っ取られて変貌してしまったわたしの姿。……これからわたし、どうなるんでしょうか?


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