異世界ビギナーズの契約そして転生管理委員会の陰謀。

棚架のぶ

第1話 転生完了

 いつもの四つ角で俺のスマホが鳴った。

 信号待ちをしていた俺は握っていた安物電話のディスプレイをチラリと見た。

 サイレントモードにしてた筈のスマホがブルブル鳴動しながら妙な表示を出している。

『承認して下さい』

 赤い丸のボタンだ。

 ネットショッピングの時のヤツに似てる。

 新手の悪戯メールの可能性もある。

 迂闊な判断は避けるべきだ。

 俺はボリュームボタンを操作して切り抜けようとしたが音量調節が出来ない。何故だ。周りの視線が気まずい。

 しょうがないから「承認」を押した。

 スマホは静かになった。

 信号が青になり横断歩道を渡ったところで2回目が来た。

 更に激しい音と振動。

 気持ち悪くなってきたぞ、おい。

 昨日ダウンロードした変なゲームのせいかもなぁ、やっちまったな、消去しよう...

 そもそもスマホが古い型だから以前から変なメールとか来るしバッテリーの減りも早いし兎に角カネを稼がねば新機種に手が出ん...

 などと思いつつ画面を視ると

『転生完了』の4文字。

 スマホは静かになった。

 意味不明だが、まァ良いかぁ。課金請求とか来るかもしれんが...

 俺は先を急いだ。バイトに遅刻してしまう。

 視線を上に戻すと見知らぬ人物が俺を睨みつけていた。

 ギョッとしたが若い女性だったので反射的に笑顔を創る。

 俺はサービス業従事者である。慣れているのだ。

「あ、どうも、何か?」と曖昧に事態を収拾して先を急げと横をすり抜けようとした其の瞬間に目の前に刃物的なモノがギラリと光った。

 あー今日イベントやってんだなー。

 俺はニヤリとした。時間が有れば参加したいと思った。

 その娘のコスプレは見事なもので警察とも軍隊とも違う東欧っぽい華やかさとSFっぽい機能美を兼ね備えていた。黒を基調としてベルトは真っ赤、肩のモールは紫。左の胸に銀色に光る斜め十字の紋章がある。少し攻め過ぎな感もあったが俺の趣味に近い。

 小さめのベレー帽に長い髪。キリッとしたナチュラルメイクの眼差しは世界的にヒットしたアノ作品のアノ少佐を思わせた。

 我、アニヲタなり。だが今は先を急ぎたい。

「ゴメンごめん、時間ないんだよねー」と俺は満面スマイルをキープして言った。

 そして気合の入ったパフォーマンスをするコスプレイヤーの娘の瞳を見つめる。美しい瞳だ。できることならばマジ参加してー。俺もコスプレしてー。デヘヘデヘと笑みが溢れた。

 この街はイベントやってない日が無いくらい年中ザワザワしてるわけで俺は好きなんだ、この街。

 その福岡市天神の街に娘の怒号が響き渡る。

「黙れ!!!違法転生者!!!貴様を連行する!!!」

 俺はポカンとした。わけが分からん。

「私は地球防衛機構日本支部転生管理委員会、福岡抜刀隊局長、御笠野 姫奈である!!」

 日本刀らしきものを上段の構えにふりあげた。

「逃げれば切り捨てる!!!」

 なんだかワカランが恐怖を感じた。街ゆく人達も俺を怪訝そうに見ている。

 俺は転生したのか?ほんとか?

 確かに言えるのはバイトに間に合わんって事だけだ。

 こら、しもたばい。

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