Bogeyman
渋谷滄溟
序言葉 あの日
「すまない。本当に、すまなかった。私達は、君の兄を救えなかった。」
冷気が漂う霊安室。一人のスーツ姿の男が、目の前で放心状態となっている少女にそう嘆いた。少女はそんなスーツ姿の男には目もくれず、台に寝かせられている兄だったモノをじっと見つめていた。優しい兄の顔は、体全体にかけられた布で見えない。
「兄貴の、顔が見たい。」
少女は縋るようにスーツ姿の男を見た。男は、眼鏡をかけていても分かるくらい、くやしそうな表情をした。そして絞り出すように声を出した。
「顔は、その、見れないんだ。」
「どうして?」
「ないんだ、頭部が。発見された時にはもう…」
少女はその言葉を聞いた途端に兄の亡骸に泣き崩れた。
「嫌だよぉ、おにぃちゃん!」
少女の叫び声に等しい泣き声は霊安室によく響いた。スーツの男は、より一層悔しそうに唇を噛んだ。少女は、人がいることも気にせず、わんわんと大泣きした。
「何でみんな、私を置いていくんだよぉ…」
そんな小さな小さな声の弱音さえ、霊安室に轟いた。
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