神喰らいのカラミティ

@tennnennpa-ma

幸福の定義

「幸せって何だと思う?」

「は?」

優斗の発した言葉は今までと脈絡がなかったため私と早苗は驚いて優斗を見る。中学校最後の夏休み、いつもの3人で集まった私たちは公園でアイスを食べていた。

「いや、世界から戦争や争いを無くすにはどうすればいいんだろうって、思って.」

柄にもない発言に、いつもだったら驚いていたと思うがあまりの暑さに相手をする気にもなれず「中学生には難しすぎる.」と吐き捨てるように言って、適当に話を終わらせてしまった。


[pipipipipipi]

「うぅ~ん」規則正しく動く目覚まし時計とは対照的に私の体も100年前の時計のように緩慢に動き出した。1階に降りると母親はもう仕事に向かったたらしく朝食と書かれたメモが目玉焼きの上に置かれていた。

おぼつかない足取りでそれをテーブルに運び白米とみそ汁と一緒に食べた。夏休みということもあってかテレビはは戦争の特集が多かった。

「戦争を終わらせるにはどうしたらよいのか」

そんな不可能に近いことを大真面目に話し合っているお偉いさん方を見て「滑稽甚だしいな」と思いながらコーヒーを飲むと、昔のことを思い出した。私は幼いころからいろいろなことに好奇心と疑問を抱いていた、中学生の頃は良くも悪くも正直だったように思える。いい意味で間違っていることを間違っていると言えたし悪い意味で強調性がなかったように思える。そのため先生や親しくない生徒からは「絡みつく」と「惨事」を意味する「カラミティ」と呼ばれたいた。

ふと、喉元に迫るコーヒーの熱さに痛みを覚え、現実に引き戻される。

携帯電話を持ってないことに気づき2階にとりに戻る。

「ん、知らないアドレス。」

見知らぬアドレスから一通のメールが来ていた。

「おめでとうございます。貴方は宗教戦争に徴兵されました。チームに来てください。宗教撲滅委員会より」

それだけ書かれたメールに戸惑っていると宛名の下に怪しげなURLが表示されていた。ウイルスの可能性を考慮して一瞬URLに飛ぶのをためらうが連絡する相手がいないのに携帯電話を持っていても仕方がないと開き直りURLにアクセスした。

「ピーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!」

「っ!」

耳を劈くような大音量の音と共に私の体が携帯電話に吸い込まれていった。



「ぉぃ...ぉい...おい!」

誰とも知らぬ怒号に驚き慌てて体を起こす。目のまえにはクマのように大柄な男が立っていた。

「気が付いたか、たっく何度も呼び掛けているのに返事がねえから死体が転送されてきたかと思ったぜ、おら、立てるかお嬢ちゃん。」

クマに引っ張られてなんとか立った。

「あんたみてぇな女の子がこんな忌ものたちのたまり場に来るとは、同年代の男の子も女の子もこの前来たばっかだし...全く理解に苦しむぜ」

男は呆れと感心が同程度の割合で混じったような声で話している。

「おっと、自己紹介がまだだったな。俺は宗教撲滅委員会第2チーム隊長トキシックだ。よろしく頼むぜ。」

事態を呑み込めていない私にトキシックは簡単なルールを紙にメモして私に渡した。

*大前提としてここにいる人間は犯罪を犯した者や生活に苦しんでいる者がほとんどだ社会に居場所がないものや社交的でないものもたくさんいる。運営はそいつらに適当にメールを送って、のこのこ来たやつがここにいる感じだ


*この体は現実と連動しているためここで死ねばあっちでも死ぬ。せいぜい生き延びろ。だが餓死はしないようにできている運営からは最低限以上の食糧が配給される


*戦争への出兵は現実の内戦であり、各所に設置された軍事キャンプへ自身の携帯電話から転送される。また、携帯電話から体が構築されている途中でもダメージはあるため転送中に既に死んでいる可能性もある、それをなるべく防ぐためキャンプと戦場の距離は遠くなっている


*俺らの役割はただ一つ宗教による戦争と各地で起こっている内戦を終わらせて世界に平和をもたらすことだ。そのためには抵抗する教徒を殺すこともいとわない。

抵抗しない教徒は委員会の更生施設に転送されてこちら側の兵士として生まれ変わり戦場へ送り込まれる


*また、宗教戦争に勝ったら現実に帰してくれるそうだ。しかも、なんでも1つ願いをかなえてくれるらしい

1通りルールを読み終えてパニックになっている心身を無理やり落ち着かせて、ふと頭によぎった疑問をぶつける。

「先ほど同年代の男の子と女の子が来ていると聞いたが、それはいったい...」

「あぁ、それな。おい新人来い」

現れた新人の顔を見て心臓の鼓動がさらに加速する。あぁなんてこの世は理不尽で分かりやすい程残酷なんだろう。

「優斗、早苗…」

「桜も来ていたんだね…」

優斗の笑顔はひどくゆがんでいて、こちらを心配していることが傍目にも理解できた

「桜」

隣の早苗は嬉しさと後悔が入りまじったような顔で私を呼んだ

私たちを見つめていたトキシックはおもむろに去り数分後に私に小型のハンドガンを持たせた。普段持っている筆記用具や食器とは格段に異なる重さに、この事態の現実味が増してきて吐き気がこみ上げる

「友達と現実に帰りたければ戦って戦争に勝て死んだら、一生会えないぜ。」

問いかけたいことは山ほどあったが、先ほどとは打って変わった彼の表情を見て私は無言でうなずいた。

「カラミティ大丈夫だよ。」

懐かしいあだ名が背後から聞こえた。私は努めて真剣にふるまい、2人に言った

「絶対に帰ろう」

「うん!」

力強くうなずいた2人と私を取り囲んだ隊員たちから雄叫びが上がった。

やってやる。生きているなら神様だって殺せるはずだ





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