勉強熱心な遊び人と、怠け者の薬剤師

茜カナコ

第1話

「なんか楽しいことないかなぁ」

リリーは言った。

「遊び人がそんなこと言ってどうするんだ? 」

怠け者の薬剤師、ルーファスが答えた。


リリーは、遊び人という職業が嫌でたまらないらしい。

しょっちゅうルーファスの家に行っては、作られたポーションやエリクサーを売りに行って、手間賃を得ていた。お金に困っていた訳では無いが、物を売るのは楽しいらしい。


リリーは18歳で、美人だった。

歌や踊りは天才的で、だれもが見惚れてしまう。

街角で踊りながら歌えば、いくらでも人が集まり、投げ銭が山のように集まった。


「遊びって、結構奥深いんだよね。いくらでも勉強できるの」

「そんなものかい? 」

リリーの台詞にルーファスはつまらなそうに答えた。

「ルーファスも、食べられる分だけ薬を作るんじゃなくて、勉強のために色々挑戦してみればいいのに」

ルーファスはそれを聞いて鼻で笑った。


「俺は食べていければそれでいいんだよ」

「でも、ルーファスの作る薬は、他所よりずっと高品質だって有名だよ? 」

リリーは、勉強が好きだった。遊びも勉強しながら続けていた。

「なんで、職業が自由に選べないんだろう」

リリーは口を尖らせた。


「遊び人だって、極めれば貴族にだってなれるだろ? 」

ルーファスがそう言うとリリーは頭を振った。

「そこまで極めるのは大変よ。でも、貴族になったって、あんまり良いこと無いわ」

リリーは長い髪を指先で整えながら言った。


「ルーファス、いるかい? 」

お客さんが来た。

「ああ、居るよ」

「ちょっとポーションを売ってくれ」

「一つ100ギルだ。いくつ居る? 」

「10個」


ルーファスの家にはたまに、お客が買い物に来る。

それを見越して、いくつかの薬は在庫を抱える様にしていた。

「リリーじゃないか? またルーファスの手伝いをしてるのか? 」

お客がリリーに話しかける。


「まあねぇ。やることないし」

「遊び人は遊んでればいいんじゃないかい? 」

「遊び続けるのも大変なのよ」

リリーはそう言ってから、歌を歌い始めた。


「良い歌だな。なんて歌だ? 」

リリーはお客の言葉に応えた。

「即興よ」

そう言って、リリーはルーファスに話しかけた。


「私、街にもどるわ。そろそろ夜遊びしなきゃ。お客さんが私の歌と踊りを待ってるし」

「そうか。行っておいで」

ルーファスはお客にポーションを渡しながら答えた。


勉強好きの遊び人リリーは、夜の街に消えていった。

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